公益財団法人野口研究所(所在地:東京都板橋区加賀1丁目9番7号、理事長:白井 博史、以下「野口研究所」)と旭化成ライフサイエンス株式会社(本社:東京都千代田区有楽町一丁目1番2号、社長:金澤 有祐、以下「旭化成ライフサイエンス」)は、このたび、野口研究所が保有する抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、以下「ADC」)※1に関する技術(特許番号:特許第7144643号※2、以下「本技術」)について、ライセンス契約(以下「本契約」)を締結しましたので、お知らせします。本契約は、両者が連携し、野口研究所が保有する先端的なADC技術の社会実装を見据え、その活用拡大と持続的な事業展開につなげることを目的としています。
ADCは、特定の細胞を認識する抗体に、治療に用いられる薬物(ペイロード)を結合させた医薬技術で、抗体が薬物を目的の細胞へ運ぶ役割を担います。抗体と薬物は、リンカーや結合位置(アタッチメントサイト)を介して組み合わされており、本技術はこれらを分子のレベルで制御することで、多様かつ均質なADCを設計できる点に特長があります。これにより、薬の効き方や安全性の面で、より安定した治療につながることが期待されます。
本契約の概要
本契約は、野口研究所が保有するADC関連技術について、旭化成ライフサイエンスが独占的通常実施権を取得するものです。本契約に基づき、旭化成ライフサイエンスは、本技術を用いた研究開発、製品化、サービスおよびサブライセンスの許諾を行うことが可能となります。
本契約の背景
近年、ADCは、薬を狙った場所に届けることができる次世代の医薬技術として注目を集めています。ADCは、がん細胞など特定の細胞だけを見分けて結合する性質(標的選択性)を持つ抗体と、治療に用いられる低分子薬物を組み合わせたもので、DDS(Drug Delivery System)の考え方を応用した医薬技術です。従来の治療とは異なり、必要な細胞にだけ働きかけることで、治療効果の向上や副作用の低減が期待されており、がん治療をはじめとする医療分野で研究開発が進んでいます。
野口研究所は、長年にわたり蓄積してきた糖質・糖鎖研究※3を基盤として、薬物抗体比(Drug-to-Antibody Ratio、以下「DAR」)※4や、その結合位置を精密に制御できるADC技術の研究を進めてきました。
本技術は、DARや結合位置のばらつきといった、従来のADCが抱えていた課題に対応し、分子構造の均一性に優れたADCの設計を可能とする点に特長があります。これによって、薬の効き方や安全性の予測性を高め、安定した治療効果の提供に寄与することが期待されます。
さらに、用途や目的に応じた幅広いDAR設計が可能なADC構造や、異なる種類の薬物を1つの抗体に搭載するDual Payload構造※5への応用も視野に入れており、将来的にはがん治療の選択肢を広げ、より効果的な治療戦略の構築に貢献することが期待されます。
一方、旭化成ライフサイエンスは、ライフサイエンス分野における事業基盤および事業開発力を活かし、将来の医薬品開発や製品・サービス展開につながる技術を求めて、外部機関との連携を継続的に探索してまいりました。こうした取り組みの一環として、野口研究所との協議を進め、このたびの契約締結に至りました。
今後の取り組み
野口研究所と旭化成ライフサイエンスは、本契約を通じてADC技術の社会実装に向けた取り組みを推進いたします。あわせて、本技術の活用拡大を目的に、製薬企業や当社子会社のBionova Scientific, LLC を含むCDMO※6等への事業展開を進めるとともに、将来的なサブライセンスも視野に取り組んでまいります。さらに、両者は技術の高度化を図るための共同研究にも取り組み、相互の知見を活かした連携を通じて、医療および社会課題の解決に貢献してまいります。
公益財団法人野口研究所について
野口研究所は、化学技術の振興を目的とする公益財団法人であり、「研究開発」「研究助成」「人材育成」の三事業を軸に活動する学術研究機関です。現在は、生命現象の解明に資する糖質・糖鎖領域の研究に重点を置き、先端的研究の推進に加え、大学・企業との共同研究、若手研究者への研究助成、教育活動を通じて、科学技術の発展と社会への貢献に取り組んでいます。本取り組みも、将来の医療の発展に資するという公益的な観点から実施するものです。詳細はホームページをご参照ください。(https://noguchi.or.jp/ )
旭化成ライフサイエンス株式会社について
旭化成ライフサイエンス株式会社は、旭化成グループのヘルスケア領域の事業会社として、医薬品産業向けの製品およびサービスを展開しています。ウイルス除去フィルター「Planova™」事業を中核として、医薬品の安全性および生産性の向上に長年取り組んできました。さらに、BionovaやViruSureなどの子会社を通じ、バイオ医薬品の開発・製造受託やバイオセーフティ試験サービスを世界で展開し、医薬品の研究開発から製造に至るプロセスを幅広く支えることで、医薬品産業の発展に貢献しています。詳細はホームページをご参照ください。(https://www.asahi-kasei.co.jp/lifescience/ )
用語解説
- 抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC):特定の抗原を認識して結合する抗体に、細胞障害性を有する薬物を化学的に結合させた医薬技術。抗体の標的認識能を利用して薬物を目的とする細胞へ送達することで、標的選択的な作用を狙い、周囲の正常な細胞への影響を抑えることが期待されます。
- 日本特許登録番号 第7144643号
発明の名称:ポリエチレングリコール鎖を有する糖化合物、及び抗体薬物複合体の前駆体
登録番号:特許第7144643号
出願日:令和3年3月26日
登録日:令和4年9月20日 - 糖質・糖鎖研究:生体内で、細胞表面に存在する糖質や糖鎖の構造・機能を解明し、細胞同士の認識や結合、免疫反応などに果たす役割を明らかにする研究分野。
- 薬物抗体比(Drug-to-Antibody Ratio:DAR):抗体1分子あたりに結合した薬物(Payload)の平均分子数を示す指標であり、ADCの薬効、安全性、安定性に大きく影響する重要な設計パラメータです。DARが均一であることは、製剤品質や治療効果の再現性に直結します。
- Dual Payload構造:1つの抗体に2種類の薬物を同時に結合させるADCの設計で、異なる作用を併せ持つことで治療効果の向上が期待される技術です。
- CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization、医薬品開発製造受託機関):医薬品の研究開発段階から製造までを製薬企業から受託する機関
以上