旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「当社」)は、このたび、炭酸リチウムを活用したリチウムイオン電池(LIB)におけるリチウム(Li)プレドープ技術※1(以下、「本技術」)を開発したことをお知らせします。
本技術は、シリコン(Si)系負極等を用いたLIBにおける初回充電時の不可逆容量※2の課題を解決し、LIBの高エネルギー密度化とコスト競争力向上に貢献することが期待されます。当社は今後、本技術の社会実装に向け、LIBの開発・製造に取り組む電池メーカーを中心に、ライセンス提供を進めてまいります。
- 初回充電時に負極側で消費されるLiを、あらかじめ電池内に補う技術。不可逆容量による容量ロスの低減を目的として検討される。
- 初回充電時に負極に取り込まれたリチウムのうち、負極表面の被膜形成や副反応などに消費され、その後の放電で正極側へ戻らなくなる容量。不可逆容量が大きいほど、電池として実際に利用できる容量は低下する。
1. 背景
近年、電気自動車(EV)をはじめ、ヒューマノイドロボットなど、LIBの将来的な用途拡大が見込まれる分野では、LIBのさらなる高エネルギー密度化が求められています。これに対応するため、Si系負極材料による高容量化や正極の高電圧化といった技術開発が進められています。
一方で、Si系負極は、従来の黒鉛負極と比べて、初回充電時に大きな不可逆容量が生じるという課題があります。特に、負極へのSi系材料の添加率を高めた高エネルギー密度設計の次世代LIBでは、不可逆容量の増大に伴い実際に利用できる電池容量が低下するため、それを補うための正極材使用量増加による電池コスト上昇が生じる可能性があります。
この課題への対応策として、初回充電時の不可逆容量によって失われるLiを供給するためのLiプレドープ技術が検討されています。しかし、従来のLiプレドープ技術では、Li供給材料のコスト、電池性能への影響、既存のLIB製造工程への適用性などが課題となる場合があり、低コストで量産適用性に優れたLiプレドープ技術が求められてきました。
2. 本技術の概要
当社は、従来のLi供給材料と比較して安価で、LIB材料として使用実績のある炭酸リチウム(炭酸Li)に着目しました。しかし、Li供給材料として使用するためには、炭酸Liの分解電圧がLIBの定格電圧範囲を大きく上回るという課題がありました。この課題に対し、電解液の添加剤技術によって炭酸Liの分解電圧を低下させることで、炭酸LiをLIBにおけるLi供給材料とする新たなLiプレドープ技術の開発に成功しました。
本技術は、炭酸Liを正極材に混合し、炭酸Liの分解を促進する添加剤(分解促進剤)を電解液に加える電池構成で実現できます。このため、既存のLIB製造工程との親和性が高い技術です。また、比較的安価な炭酸LiをLi供給材料として活用することで、容量当たりの材料コスト低減にもつながります。
本技術を、高比率Si系負極を用いた次世代LIBに適用することで、以下の特長が期待されます。
- LIBのエネルギー密度をはじめとする電池性能の向上
- 容量当たりの電池材料コストの低減
- 既存のLIB製造工程への高い適用性
なお、本技術の開発では、当社が長年蓄積してきたLIBやリチウムイオンキャパシタ、電池材料等の開発知見に加え、独自のシミュレーション技術およびマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用しました。
3. 今後の展開
当社は今後、本技術の社会実装に向け、高電圧型正極やSi系負極を活用した高エネルギー密度LIBの開発・製造に取り組む電池メーカーを中心に、ライセンス提供を進めてまいります。導入にあたっては、お客さまの電池セルでの検証や試作評価を通じて、量産適用に向けた検討を段階的に進めていく予定です。
ライセンス提供にあたっては、関連する技術情報の提供および知的財産の使用許諾を含めた展開を想定しています。
当社は、本技術のライセンス提供を通じて、LIBの高エネルギー密度化とコスト競争力向上に貢献し、幅広い分野における次世代LIBの普及を支援します。これにより、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」という2つのサステナビリティの好循環を追求してまいります。
参考
- リチウム電池分野を代表する国際会議「The 23rd International Meeting on Lithium Batteries(IMLB2026)」において、黒鉛90%/SiO 10%混合負極およびNCM正極を用いたリチウムイオン電池への適用例として、当社技術のポスター発表(Poster number:T06-P033)を行いました。
https://imlb.org/posters/
旭化成の無形資産の活用について
旭化成は2025年4月に発表した『中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~』のもと、研究開発においては「変わる未来のはじまりを。」を理念に掲げ、無形資産を活用した「TBC(Technology value Business Creation)」を推進しています。これは旭化成が保有する豊富な無形資産を多様な形態やライセンスとして提供・活用し、収益化を図る取り組みです。こうしたライセンス活用によるビジネスを、2025~2027年度で10 件以上生み出し、2030年頃までの累積利益貢献で100億円以上を目指しています。
以上