お客様とともに実現した「RE100」──15年繰り上げで達成した、その舞台裏

2026年3月5日

旭化成の住宅事業を担う旭化成ホームズは、国内ハウスメーカーとして初の「RE100」を2023年度に達成した(※)。「RE100」とは“Renewable Electricity 100%”の略称で、カーボンニュートラルの実現に向けて、企業が「事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギー(再エネ)で賄うこと」を目指す国際的な取り組みである。当初目標としていた時期から大きく繰り上げて、お客様とともに達成した取り組みの舞台裏を紹介する。

環境問題の解決に向けた世界の熱量

子どもたちのために、未来のために——環境問題に関する海外のスピーチに耳を傾けると、本気で地球の未来に向き合う登壇者の熱量と言葉に、当時、旭化成ホームズの環境 ・渉外技術部長であった武藤は心を突き動かされた。「私も子どもがいるので、未来を担う人たちに胸を張って、バトンをつなぎたいと心から思いました」。旭化成の住宅事業領域は、当時売上1兆円という目標に向かって走り始めた時期であり、社会貢献においてもより大きな役割を果たす必要があると考えていた。
武藤は社会動向と自社の事業形態や強みを分析し、2018年ごろから新たなサステナビリティ推進活動を模索。電力小売自由化が始まり、エネルギーのあり方が変わり始めていた時期でもある。そうした環境変化を背景に、そうした環境変化を背景に、武藤は企業が事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指すRE100に着目。住宅事業全体での参加表明と達成に向けた計画を経営陣に提案した。

  • 旭化成ホームズ(株)執行役員 武藤

構想を進化させ、動き出したプロジェクト

しかし経営陣の反応は芳しくなかった。もちろん、地球環境へ貢献する意義は出席者の誰もが理解している。ただ、住宅事業はお客様を大切にする企業文化が特に強く、経営陣から従業員1人ひとりまで浸透している。お客様へのメリットが実感できなければ、取り組みの優先順位を上げるのは容易ではない。3カ月後、今度は脱炭素化に伴う事業リスク回避と組み合わせた形で再度提案したものの、やはり承認には至らない。「なぜ、賛同してくれないんだ」。武藤の中で鬱屈とした想いが募っていった。
そんな中、記録的猛暑や集中豪雨、気候変動ストライキなどによって、気候変動への関心が世界的に高まっていった。また、国内では再エネ電力の固定価格買取制度(FIT制度)の買取期間満了を迎える家庭が増加することが卒FITとして注目を集め、対応策を表明する企業も出てくるようになった。この状況を捉えた武藤は、太陽光パネルを設置しているヘーベルハウス・ヘーベルメゾンのお客様から電気を買い取り、お客様の満足度を高めることを重視。買い取った太陽光電力(再エネ電力)を活用することでRE100を達成する計画を提案した。何度か検討が重ねられたのちに、この計画は無事に最終的な社内承認も得られ、ついに武藤の想いをのせたプロジェクトは始動することとなった。
まずは小売電気事業者の免許を取得していた親会社(旭化成株式会社)と連携し、電力サービス「ヘーベル電気」を立ち上げた。電力事業の運営を旭化成グループ内で完結できるしくみをつくることで、旭化成グループだからこそ提供できる低コスト・高パフォーマンスなサービス体制を構築した。そして、2019年9月にRE100への参加とヘーベル電気による卒FIT買取開始を発表。新たなサステナビリティ推進活動が本格的に幕を開けた。

  • 「ヘーベル電気」を通じた再エネ電力の買取と活用のしくみ

立ちはだかる課題

旭化成ホームズおよび住宅事業のグループ会社が事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うために必要な取り組みは、大きく2つあった。
1つ目は、卒FITを迎える太陽光パネルを設置したヘーベルハウス・ヘーベルメゾンのお客様に余剰電力の販売先として「ヘーベル電気」を選んでいただくこと。2つ目は、新規でヘーベルハウス・ヘーベルメゾンを購入されるお客様、太陽光パネルを設置していない既存のお客様にも太陽光パネルを設置いただくこと。これにより電力買取量を拡大する基盤をつくることができる。お客様のヘーベル電気への移行率、太陽光パネルの設置率を推定し、RE100達成の目標を2038年に設定した。

住宅事業が一丸となってこの取り組みを進めねば、RE100という大きな目標は達成できない。しかし活動に対する理解はなかなか進まない。その大きな要因は、環境貢献についての理解と仕事の優先順位にあった。住宅に関するスペシャリスト集団であるが、環境問題という壮大で専門性も高い領域に十分な知見を持っている従業員は多くはない。そのため、お客様にしっかりと説明でき、質問にも的確に答えられるようになるためには、インプットにかなりの時間を割くことになる。加えて、当然であるがお客様との対話の時間は有限であり、大きな買い物である住宅をご購入いただくまでには、ヒアリングしたいこと、確認しなければならないこと、提案したいことが山積みだ。環境問題の話題が商談に食い込む余地はほとんどないと思われていた。さらにコロナ禍に入り、各現場では働き方や営業方法の変革にも注力しなければならない状況が続いた。

現場と経営戦略をつなぐカギ

そんな中、社会の脱炭素に対する関心は急激に高まっていく。日本政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」を皮切りに、各社の脱炭素を推進する活動が加速した。
旭化成ホームズでは2022年4月にサステナビリティ企画推進部が新設され、サステナビリティを経営の軸の1つに据えることとなった。この変化を追い風として、武藤は社内の各拠点で環境貢献活動への理解を深めるための活動を検討。その際に共に企画をしたのが住宅事業マーケティング本部の横田だった。さまざまなマーケティング施策を立案し、現場へ展開している横田と協力・連携することで、サステナビリティやRE100に対する認知と理解の推進を図った。横田は、ZEH-M(ゼッチ・マンション)※1やEcoレジグリッド※2などのサステナブルな商品も担当しており、まさに適任と呼べる人財だった。
そこから横田とサステナビリティ企画推進部のメンバーでタッグを組み、計12拠点で社内勉強会を開催。その際横田はあえてRE100、サステナブル関連の話を全面的には出さないアプローチを取った。「サステナブル関連の専門用語は極力かみ砕いて伝え、現場へのインプットの軸も“お客様のメリット”に切り替えていきました。『“お客様にとって有益であり、くらしも充実する”ためにZEH-Mや太陽光パネル、蓄電池をご提案していきましょう』という伝え方にすることが、結果として再生可能エネルギーと電力買取量の拡大、そして脱炭素社会への貢献や企業価値の向上につながっていくと考えたんです」。勉強会を重ねる中で、環境貢献に対する理解を深めることの難しさはあったが、グループ内で少しずつ、確実に浸透していった。

  • 旭化成ホームズ(株)住宅事業マーケティング本部 横田

そして、“お客様のために”と“地球のために”をつなぐカギとなったのが、旭化成ホームズが大切にしてきた「いのち・くらし・人生」を支え続ける「LONGLIFE」という概念だ。太陽光パネルと蓄電池の設置は、災害時にも安心して住める家づくりにつながる。ヘーベル電気を利用していただくことで、くらしを豊かにできる。現場でリフォーム提案を行う青木も、そんな「LONGLIFE」を胸に本活動を推進している1人だ。「お客様に究極の安心住宅を提供したいという気持ちで日々働いています。特に、災害時に安心して生活を送っていただきたいと思っており、太陽光パネル、蓄電池の設置をご提案してきました。それによって、お客様と一緒に地球環境にも貢献できることは嬉しいですね」。

  • ※1ZEH-M:高断熱・省エネ・創エネによって、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)でおおむねゼロ以下を目指す住宅のことをZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という。ZEH-Mは、そのZEH基準を満たした集合住宅である
  • ※2Ecoレジグリッド:旭化成ホームズグループがオーナー様からへーベルメゾンの屋根や敷地の一部を30年間お借りして、太陽光と蓄電池を設置・運営する賃貸住宅経営システム
  • 旭化成リフォーム(株)中部支店 青木

15年繰り上げて達成した決め手は「お客様との信頼関係」

太陽光パネルの設置、ZEH及びZEH-M、Ecoレジグリッドを普及させていくことで、再エネ電力を産み出すこととRE100達成後もそれが継続できる基盤を構築していきながら、よりいっそう力を注いだのが卒FITを迎えられるお客様からの電力の買い取りだ。「ヘーベル電気」をお勧めすると、想定をはるかに超える数の契約をいただくことができた。これによってRE100は、当初の目標設定から計15年繰り上げて2023年に達成。国内のハウスメーカーとしては初めての達成となった。
なぜ、こんなにも早く達成できたのか。新築営業の大柴の言葉の中にそのヒントがあった。「当社では、家を建てられた後も、担当営業がお手紙やメール、お電話などで、お客様とコミュニケーションを取らせていただきます。また、旭化成リフォームからも、定期的にさまざまなサポートを提供しています。『LONGLIFE』という価値観に共感し、ご購入いただいているからこそ、特別なつながりを築けていると思います」。
武藤は、仲間やお客様はもちろん、先人たちへの感謝も口にする。「『ヘーベル電気』の立ち上げと運営に協力してくれた旭化成グループのメンバーはもちろん、これまで私たちの先人たちが築いてくれたお客様との信頼関係があったからこそ、RE100を早期に達成することができました。やはり、お客様と一緒に実現できたことに、この活動の価値があると思いますし、当社グループらしい達成の仕方だと感じています。何か1つでも欠けていたら、こんなに早く達成できませんでした。関わってくださったすべての皆さんに感謝しています」。RE100を達成するだけであれば、他にも即効性が高い施策はいくつかある。それらをあえて選択せず、「LONGLIFE」という概念のもとで、仲間やお客様と一緒に、活動自体を持続可能な形で実現することを武藤は思い描き、実現した。
2024年にはRE100リーダーシップ・アワードの「エンタープライジングリーダー賞」、翌年2025年には「チェンジメーカー賞」を受賞。達成という結果だけでなく、その志と道のりも高く評価されている。

  • 旭化成ホームズ(株)住宅事業埼玉・北関東本部 大柴

誰もが幸せになれる形で

お客様から供給を受ける電力量が増えている中で、それらをどのように有効活用していくかが今後の新たなテーマとなっている。昨年の秋には、ヘーベルハウス由来の再エネ電力などを活用し、建築、運用、改修、解体(廃棄)までの60年での累積CO2排出量を収支ゼロにすることを目指す「earth-tect(アーステクト)」という新商品の販売を開始。さらに、旭化成グループやサプライヤー企業の工場や施設で有効活用していくことで、サプライチェーン全体の脱炭素への取り組みも進めている。
サステナビリティを実現するための活動は、脱炭素だけではない。武藤は今後の展望に想いを込める。「RE100を達成するまでの過程と結果によって、当社の住宅事業におけるサステナビリティへの意識は少しずつ高まっています。一方で、私たちはまだ最初の一歩を踏み出したばかりです。サステナブルとは、現在と未来の両立だと考えています。関わるすべての人が前向きになれるさまざまな形で、今後も持続可能な社会をつくっていくことに貢献していきたいです」。地球の「LONGLIFE」に貢献していく取り組みは、これからも誰もが幸せになれる形を目指し、大きくなっていく。

  • 肩書・記事内容は取材当時のものです。 

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