100 Stories2012 大型M&Aゾール社買収

旭化成の買収案件で最大となったM&Aが2012年に行われた。アメリカの救命救急医療機器大手のゾール・メディカル社の買収である。

旭化成は2015年度までの5ヵ年中期経営計画“For Tomorrow 2015”で、医療分野の新規事業創出プロジェクトを立ち上げ、その3本柱として救命救急医療、ITを活用した在宅医療、細胞・再生医療が挙げられた。

ゾール社買収は救命救急医療の事業基盤の獲得に繋がり、社長の藤原健嗣も「これまでの買収案件と比べて買収額が1桁も2桁も違い、覚悟が違う。世の中のニーズに合った旭化成のこれからのビジネスの柱にしたい」と意気込みを語り、その額は当時の為替換算で約1817億円に及んだ。

アメリカナスダック上場のゾール社は1980年に設立され、2011年9月期の売上高は約437億円で営業利益は約40億円という企業である。生命蘇生技術を核とした救命救急領域に特化した医療機器メーカーで、2001年からの10年間の売上高の年平均成長率は16%に達する。

アメリカの医療・救急機関向け除細動器シェアで3分の1強のシェアを持つ最大手で、体温冷却を行う機器「サーモガード」も2011年に売上高約22億円を記録。これらに代表されるオンリーワン製品の開発力に加え、製品販売で培った学会や医療機関とのネットワークを構築している。

藤原の言葉を借りると「救命救急事業の展開に必要な基盤を迅速に構築すべく、圧倒的な存在感を持つアメリカの救急救命機器市場で強い事業基盤を持つゾール社の買収に動いた」格好だ。

ゾール社としても旭化成グループに入ったことにメリットを感じており、それは買収当時ゾール社CEOであるリチャード・パッカーのコメントからも窺い知ることができる。 「旭化成は必要な時に必要な経営資源を提供してくれるだけでなく、ゾールの従来の事業運営方法を続ける自由を与えてくれ、旭化成流のやり方を押し付けることはしませんでした。このように5億ドル規模のアメリカ企業が日本企業の傘下で成長を続けることは非常に珍しい事例だと思います。

買収当時、藤原が「ゾールにとって必要なことを進めてほしい。旭化成はそれを尊重する」という旭化成グループの中でゾールを経営していくうえでの哲学をパッカーに伝えており、それが守られていることが成長し続けられている要因の一つだと語っている。

2016年頃には売上2兆円、営業利益2千億円を目指そうとしたこの時代。オーガニックな成長だけでは到底達成できないと考え、旭化成が行った大型M&Aの最初となったのがゾール社買収である。

この時はまだ飛び地の事業に投資することへの理解が得られず、買収決定発表翌日には株価が6%も下落したが、現在では旭化成グループのヘルスケア部門の柱になり、成長を続けている。その後のポリポア、セージ、ヴェロキシスなどの大型買収、M&A戦略を加速させるきっかけとなった大型M&A事例である。

  • ZOLL本社の前で従業員に説明(2012年5月10日)
    社内報A-Spirit 2012年7-8月号