100 Stories1981 「なるほどザ・ワールド」からひも解くメディア戦略

「おまっとさんでした!」「楠田枝里子で〜す」
司会の愛川欽也さんと楠田枝里子さんのお決まりのフレーズで始まるテレビ番組「なるほどザ・ワールド」。

1980年代〜90年代半ばまでお茶の間で人気を博した名番組のひとつだが、この時代を過ごした方なら、番組名を聞くだけで懐かしい思い出が甦る方も少なくないだろう。

番組のファンからすると周知の事実かもしれないが、実はこの「なるほどザ・ワールド」は、旭化成一社提供の番組だった。

旭化成は、ラジオやテレビの創世記から様々なメディア広告を展開しており、そのメディア戦略が広く世間に認知される企業へ成長を遂げる一助となってきた。今回は旭化成100年の歴史の中の代表的なスポンサー番組を通して、旭化成のメディア戦略を振り返ってみたい。

フジテレビの伝説的番組「スター千一夜」に一社提供

旭化成グループの初めてのスポンサー番組は、フジテレビ開局当日の1959年3月1日から放送を開始した「スター千一夜」。放送開始から22年半、放送回数は6417回というフジテレビの伝説的番組となった、通称「スタ千」だ。

その最高視聴率は、元プロ野球選手の王貞治さんご夫妻が出演した回でなんと驚異の45.9%。最終回のゲストは昭和の大スター美空ひばりさんだったということからも、当時の影響力の高さが伺える。

このスタ千で旭化成は、個々の製品ではなく「旭化成という企業イメージ」を伝えるところにウェイトを置いていた。CMでは「はーいワチニンコ~♪」から始まる印象的なCMソングを流し、親しみやすさを強調した。その効果は絶大で、当時の子どもたちが思わず口ずさんでしまう程のブームを巻き起こし、旭化成のイメージを世間に浸透させることに成功した。

技術の旭化成を前面に押し出した「なるほどザ・ワールド」での広告戦略

スタ千の後継番組としてスタートした「なるほどザ・ワールド」は、最高視聴率36.4%、全731回の平均視聴率が21.3%という、こちらも昭和を代表する大人気番組となった。

この「なるほどザ・ワールド」では、研究開発の強化を反映して、技術の旭化成を前面に押し出した「なるほどCMシリーズ」がスタート。

「サランラップ」の耐冷耐熱機能や、「ヘーベルハウス」の断熱性のほか、「ヘーベルパワーボード」(木造住宅外壁用薄物ALCパネル)には釘が打てるなど、旭化成の商品の優れた機能をわかりやすく紹介したコマーシャルを続々と放映した。

このシリーズでは、1981年の感光性樹脂「APR」、1985年ポリアセタール「テナックSD」が、全日本CMフェスティバル(ACC)でグランプリを受賞するなど、広告業界においても高い評価を得ることに成功。

特に「テナックSD」のCMは、ピアノ線のような直径わずか2ミリのテナックSDが、演奏中のピアニストをグランドピアノもろとも空中に持ち上げるという、衝撃的かつ技術力に目を見張る内容のものであり、CMながら当時の視聴者を楽しませてくれた。

惜しまれながら「なるほどザ・ワールド」終了。新時代へ

旭化成の表看板として活躍した「なるほどザ・ワールド」だが、旭化成の事業拡大に伴い宣伝ターゲットも多様化。一つの番組では対応しきれなくなってきたこともあり、1996年に惜しまれながらも終了となる。

しかし、その後も旭化成は新時代のメディア戦略を次々と打ち出していく。新ロゴ「イヒ!」を使用したコーポレートCMが話題となるなど、印象的な広告を展開し続けた。

近年では、2022年3月末までフジテレビ「ミライ☆モンスター」に一社提供することを決定。東京2020オリンピック・パラリンピックを前に盛り上がるスポーツ界を中心に、未来ある若者を応援した。

戦後間もないテレビ創世記から行われた緻密なメディア戦略で、企業イメージを世間に浸透させてきた旭化成。時代ごとに強烈なインパクトを残してきた旭化成のメディア戦略は、今後も私たちを楽しませてくれるはずだ。

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