100 Stories2020 日本政府からの緊急要請

旭化成グループの事業におけるCOVD-19への対応は、主なものだけでも、人工呼吸器、アフェレシス治療、ウイルス除去フィルター、医薬品などのヘルスケア分野だけにとどまらず、スパンボンド不織布を使用した医療用ガウンやマスク、セルロース不織布を使用した消毒ワイパーなど素材分野でも種々多様であった。

安倍元総理大臣が、東京・大阪を含む7都府県に緊急事態宣言を出した2020年4月7日。これに先立ち、旭化成は国からとある打診を受けていた。3月25日に発表したZOLLの人工呼吸器増産の情報は政府担当者の目に留まり、医療機器あるいは医療用ガウンや防護服といった資材の供給要請につながったのだった。

これを受け、商社である旭化成アドバンスに白羽の矢が立った。
旭化成アドバンスは、早速「医療用ガウン」の調達に動き出した。しかし、旭化成は医療用ガウンや防護服の表面材に用いられるスパンボンド不織布事業を手掛けるが、最終製品ではない。そのうえ、国産品は既に需給がひっ迫していて、旭化成の素材にこだわる時間もなく、外部調達に舵を切った。そんな中、海外での探索を急いでいると、タイのアドバンス拠点から連絡が入った。

通常はバイク乗車時にかぶるポンチョ型の雨合羽などを生産している会社が、国際的な感染拡大を受け、ポンチョ型のプラスチックガウンに生産を切り替えており、欧米へ輸出している。その一部を日本向けに確保できそうだという情報だった。

そして政府要請から実働5日後には、日本にタイ産プラスチックガウンのサンプルが届いた。
しかし早速政府担当者へ届けると、ポンチョ型の仕様では着脱時の感染リスクが高いと指摘され、背面開きにしてほしいとの要請であった。

急ぎ背面開きの型に変更し、品質確保のため、品質マネジメントの国際規格を取得しているアドバンス・タイの品質保証責任者を生産会社へ派遣した。

初めての取引先との慣れないコミュニケーションの中で、生産ラインの衛生管理や、虫の混入回避など、諸課題をクリアしていった。1社だけでは生産量が足りず、最終的にはタイとベトナムで計5社の供給先を確保するに至った。
そして、5月から7月までに、計513万枚の政府への医療用ガウンの供給が完了した。

背面開きの医療用ガウン。ポリエチレン製のディスポーザブルで袖が付いている。PCR検査時などに対象者とアイソレーションするために用いられる。

オリジナル防護服「Securite(セキュリテ)」。スパンボンド不織布と通気性フィルムの2層構造で、感染リスクが高い環境で用いられる。2000年4月に素材選定を開始してから、材料調達、パターン制作、縫製工場の確保、生産体制の確立を経て、7月には上市されるという異例のスピードで事業化された。

コロナ禍におけるアドバンスの緊急対応は、「P(Protect)プロジェクト」として編成されたメンバーが担う。医療用ガウンのみならず、防護服やマスク資材などの新規販売から、除菌ワイパーの拡販、抗ウイルス生地/ウェアの開発など、多種多様な案件が含まれる。ファブレス(設備投資がない、工場を持たない)の強みを活かし、社内や社外とコネクトしながら、時代に求められるものに即座に反応し、素早く動き、実行している。