100 Stories2020 ゾール社とパンデミック

世界中が未曾有の事態となった新型コロナウイルスによるパンデミック。旭化成のグループ会社であるゾール社は、感染拡大に伴い、世界各地の医療現場が深刻な人工呼吸器不足に陥っていることから、人工呼吸器の生産を増強した。

2014年に、ゾール社はアメリカの呼吸管理機器メーカーであるインパクト社を買収することで合意し、資産売買契約を締結した。

インパクト社は35年にわたり、ポータブル自動救急人工呼吸器・吸引器などの設計、製造を手がけてきており、同社製品は軍関連の船内、ヘリコプターなどの機内、医療機関での医療行為や搬送時に使用されている。

搬送用人工呼吸器のサプライヤーであるインパクト社の買収は、ゾール社の心機能を中心とする救命医療機器に呼吸器系の製造群を補完するものとなった。

2020年、新型コロナウイルスが中国やヨーロッパに蔓延し始めた時、ゾール社は前例にないスピードで人工呼吸器の増産を決断した。新型コロナウイルス感染症の患者は肺に強い傷害を受けるため、罹患者の約5%は人工呼吸器が必要となる。

ゾール社は人工呼吸器の需要増の要請を受け、既存のラインを改修し生産に切り替えることで素早く対応し、生産能力を一気に25倍に引き上げた。

結果的にゾール社は2020年の1月から11月の間に30,000台以上の人工呼吸器を出荷した。ほとんどがアメリカ政府に提供されたが、世界中の23の異なる国にも提供された。増産には立ちはだかる壁があった。

一つは部品の調達だ。人工呼吸器は、数百個の個別にテストされた部品からなる複雑な医療機器だ。コロナ禍において部品の調達は困難を極めたが、サプライヤーとの強固な関係を生かし、また時には迅速かつ優先して部品や機器を出荷するようにサプライヤーを説得することで調達に成功した。

もう一つが、従業員の感染防止の対策だ。マスク、つい立て、その他の保護具が製造現場に持ち込まれた。従業員の中には家族への感染を防ぐために家を出て、他のところから製造現場に通って増産に従事した者もいた。

ゾール社の人工呼吸器は、高性能の内部フィルターシステムが装備され、過酷な環境でも作業性が高く、医療従事者にとっても使いやすい製品だ。必要とする医療機関等に届けられるよう努力を続けている。

  • Z Vent(ポータブル人工呼吸器)