100 Stories1974 シンクタンク 旭リサーチセンター

高度経済成長時代の旭化成を、情報源として支えた関係会社がある。ネット等で様々な情報を簡単に得ることが難しかった時代に、情報の調査・入手を担っていた旭リサーチセンター、通称ARCだ。

当時は、第一次石油危機を契機に企業を取り巻くあらゆる問題に関し、的確に内外の情報を収集分析することが求められていた。それを担う強力な調査機関として、1974年に設立されたのがARCだった。

「企業内に調査部なんか作ると、不況になるとすぐ予算は削られるし、余計者扱いされる。また、仕事と直接結びつく調査ばかりやっていては、短期的にはいいけれども、長い目で見ると、社会や歴史の流れを見失い、企業としても大変にあやまった方向へ進んでしまうことがありうる」という宮崎輝らしい考えによるものだった。

ARCでは、「政治・経済・外交・文化・産業・企業・化学及び資源等に関する調査・分析・研究」が行われたほか、「あらゆる産業分野における技術水準・技術動向の調査・分析・研究及び技術の企業化の検討並びにシステム化の研究」も行われた。まさに企業を取り巻くあらゆる問題に対して調査・分析をする機関だったのだ。

また、国鉄・電電公社・専売公社という三公社の民営化で知られる第二臨調では、宮崎が委員に選出されたが、ARCから山同陽一(さんどう よういち)と鈴木良男(すずき よしお)がスタッフとして支えている。

鈴木は第二臨調をスタッフとして支えた後に、ARCの取締役会長まで務める傍ら、長く日本の行政改革・規制改革のために尽力した人物だ。当時の規制改革について次のように語っている。

「規制改革の中身の変化は感慨深いものがありました。以前まで規制緩和とは“もう使っていない規制”を整理するにすぎなかったわけです。それが、経済活動や国民生活に現に大きな影響を及ぼしている規制の撤廃に力点を置くようになりました」

中でも鈴木が特に尽力したのが医療制度改革だ。例えば、今では当たりまえになっている一般小売店での医薬品の販売が可能になったのは、この時の改革の成果だ。また、混合診療についても一定の解決を得た。混合診療とは、保険診療と保険外診療を併用することを言い、規制緩和前は混合診療の場合その全てが保険適用外となっていた。

鈴木のように行政でも活躍した人物を輩出したARCは、近年では木材由来の新素材・セルロースナノファイバー(CNF)の応用開発の分析が注目を集めた。この分野で日本は世界のトップを走っており、2015年からの5年間で出願されたCNF特許は640件で世界2位。この調査をしたシニア・フェローの松村晴雄は「1位の中国の出願はほとんどが国内のみ。世界で有効な特許に限れば日本の出願数の多さが際立っている」と、この分野での日本の優位性を語った。

旭化成もサステナブルな素材として注目しているCNFは、これからの成長が見込める素材だ。松村も「海外勢に真似のできない高機能製品を開発し、CNFの認知度を高めていく事が成長のカギだ」と調査結果に付け加えている。

時代が変わりネットなど情報を得やすい時代となってもなお存在感を示し続けるARC。旭化成のシンクタンクとして設立から40年余りが経過した。旭化成の関連会社の多くは「旭〇〇」から「旭化成〇〇」と名前を変更する会社が多い中、ARCは当初のままの社名「旭」を使用し「旭リサーチセンター」としてその名称を貫いている。

旭リサーチセンターHP
https://arc.asahi-kasei.co.jp/