100 Stories1977 りんたろうミミズ

「旭化成のアイデア商法、ミミズの養殖大ヒット—今年の売り上げ3億円見込む」
そんな見出しが新聞紙上に踊ったことがある。「延岡旭繊維」が始めたミミズの養殖事業が快調に売り上げを伸ばしていたのだ。

そのアイデアは斬新だ。ベンベルグ製造の副産物、繊維屑を有効活用して、釣り餌用ミミズを生育する。繊維くず=コットンリンターから命名された、「りんたろう」だ。

釣り餌用として養殖に乗り出した「りんたろう」1977年から販売開始。1箱に60匹前後(計約30グラム)入って末端小売価格は250~300円で、太さによって太虫、普通虫、小虫の三種類を用意した。発売初年度は末端売り上げベースで約5,000万円だったが、年を追って売上は急増。釣りブームに乗って、最盛期の1988年には58.7トンを出荷し、全国シェアの約5割を占める一大生産地の地位を築いた。

りんたろうの躍進の理由に、「りんたろうの“活き”がいいこと」も挙げられた。普通のミミズの生息期間は箱詰めから約1週間だが、りんたろうは1カ月の保証付き。実際には2~3カ月は保つというから驚きだ。原料のコットンリンターと、箱の中での土壌や包装方法に独自の工夫をこらした。

その後も快進撃を続けたりんたろうだが、時代の流れに飲み込まれることとなる。ルアーフィッシングなど疑似餌が流行りだすと世の中の不況もあり、出荷は4分の1近くまで落ち込む。

「このままでは製造中止か」。そんな時、ミミズの酵素が、血栓を溶かす効果があるとして、奈良県の製薬会社から、健康食品原料用に大量注文が舞い込んできた。高齢化、健康ブームに乗って需要は増え続け、釣り餌用をしのぐようになる。

2001年からは15か所の農家に生産を委託。出荷量は年42トン(うち健康食品用30トン)まで回復し、注文に応じきれない状態が続いた。糞も活性炭のように多孔質なうえ、消臭効果もあるとして、培養土としても試験的に販売を始めた。

ミミズ人気を聞きつけて、養殖法の教えを請う人や会社も相次いだ。しかし、同社は「新たに投資をしても、利益が出るものではありません」とくぎを刺した。ミミズはなかなかデリケートな生き物で、設備を増やせば生産が伸びるというものでもない。15~25度の適温、で水分をしっかり保つ。栄養にも気遣い、コットンリンターのほかに、野菜やキノコ栽培の廃木くずなどを与える。環境が適さないと、集団で脱走することもある。朝出勤したら、一晩でミミズがすべて逃げ出しているということも少なくない。ミミズ養殖は非常に手間暇のかかるものなのだ。

たかがミミズだが、されどミミズ。斬新なアイデアと廃棄物の有効利用からスタートした「ミミズ事業」には、旭化成ならでは自由な発想とエコ意識があった。

  • 「りんたろう」のパッケージ