100 Stories2020 工場移転を完了させた旭化成塑料

中国とヨーロッパにかけての広域経済圏構想である「一帯一路」の中で、中国政府は環境保護政策で世界をリードする戦略を示している。中国の環境規制の強化に伴い、日本の素材や部品メーカーが生産拠点の移転や計画変更を余儀なくされた。それは旭化成も例外ではなく、蘇州の工場の拡張を断念し、江蘇省常熟に工場を 新設することとなったのだ。

2002年に旭化成はニチメンが全額出資する中国におけるコンパウンド樹脂生産に関わる子会社の持ち分の過半数となる51%を譲り受け、同時に社名を「旭化成蘇州複合塑料」と変更。その1ヶ月後には、旭化成が100%出資で上海市内の外高橋地区に機能樹脂ならびにコンパウンド製品の供給、および技術サポートを行う販売会社「旭化成塑料」を設立した。

この旭化成蘇州複合塑料が、2019年に蘇州から江蘇省常熟へ移転をすることとなった。移転後すぐに生産を始めるためには、優秀な従業員も共に転籍する必要がある。しかし、キーマンとなる古参従業員は、すでに蘇州に家を構えているか、会社付近に住んでいる人がほとんどだ。

これでは通勤に100kmの距離を克服する必要がある。この事態に経営陣は、2度にわたる従業員全員への個別面談を通じてその声に耳を傾けた。その上で福利厚生制度、および現状に適した送迎車、宿舎、食堂などを整備し、移転について大部分の従業員の理解と支持を獲得する。

さらに常熟の新工場では、技術部を設置。新たに従業員を採用し、全力で技術や研究開発が行えるように環境を整えた。一方で現場作業員の採用は難航した。生産を滞りなく行うためには、新たに22名の採用が必要だったが、半年以上経っても3名しか新規採用ができなかった。

このような問題を解決しながらも、移転がほぼ終了した2021年の1月、労務紛争が発生。古参従業員の一部が常熟の新工場の門を車両で塞ぐという事態になったのだ。この紛争は、会社の幹部や従業員、また現地政府の協力を得て、共に尽力し無事解決に至った。

全ての従業員の声に耳を傾けて良好なコミュニケーションを行うことで信頼関係を築いた。そしてニーズに合わせた改善を行い、万全のフィードバック体制を確立することで、旭化成塑料の工場移転は完了した。海外現地法人では1例目である。

  • 旭化成塑料(常熟)の起工式