100 Stories1995 「スクラムハウス」鉄腕アトムが木製に!?

言わずと知れた手塚治虫の名作「鉄腕アトム」。原子力をエネルギー源として動く、人の感情を持った少年ロボットアトムが、21世紀の未来の世界を舞台に活躍する。漫画だけでなく、アニメや特撮番組にもなったアトムだが、なんと一度木製になったことがある。

そのきっかけとなったのが、旭化成の木造住宅「スクラムハウス」だ。1995年4月に設立された旭化成スクラムハウスが、木造軸組構造住宅として商品化した。

当時の日本の持ち家住宅市場は、木造住宅分野が全体の8割を占めていた。伝統的な在来工法が主力だったが、徐々にプレハブメーカーも進出しつつある状況だった。

旭化成では、市場の大きさに着目し、独自のテーマで事業拡大を目指した。そのテーマとなったのが「科学でチャレンジ」だ。

スクラムハウスの最大の特徴は、工業化材料と工業化工法を取り入れることで、コンクリート造や鉄筋造の住宅と同じように本格構造計算ができるというものだ。その新しい工法は「スクラム工法」と呼ばれ、耐震性などの構造強度の向上や、施工精度を高めた。

新しい技術を用いたスクラムハウスは、CMのイメージキャラクターに鉄腕アトムを起用する。国民的キャラクターとなっていたアトムは、スクラムハウスのテーマである「科学でチャレンジ」とも親和性が高く、まさにはまり役となった。

さらに注目を集めたのが、CM中でアトムを木製にしてしまうという演出だ。木製アトムの素材には、スクラムハウスでも使用している「集成材」を使用した。

集成材とは、複数の板を結合させた人工の木材だ。特に建築 用の集成材は、厳格な検査基準と規格が設けられ、品質を徹底的に管理されるため強度と安定性がある。耐水性もあるほか、水分によって反ることも少なく、使い勝手もよいため、大工の腕による仕上がりの差も少なくなる。

CMではそんな集成材を用い、アトムを改造するシーンから始まる。火花を散らしながら完成したアトムは、オリジナル版より心なしか木の温かみを感じる、やわらかい印象に仕上がった。「科学が育てた木造住宅」のコピーとともに、スクラムハウスを訪れるアトムに、温かい日光が差し込むシーンは、新時代の木造住宅を感じさせた。

またスクラムハウスは多くの長所をもつ住宅だった。構造強度の優位性はもちろん、空間の設計の自由度が高いこと、さらには量産・量販のためのシステムも確立したスクラムハウスは、鉄腕アトムとのコラボも後押しし、関東圏を中心に快進撃を続けた。

1997年8月にはデザインパネルを外壁に用いた「スクラムハウスクオルト」、1998年10月には外壁にヘーベルパワーボードを用いた「スクラムハウスパレット」など新商品を次々に発売し、旭化成らしいチャレンジングな姿勢を貫いた。

しかし、2000年12月、スクラムハウスの新規受注を停止。社内からもその技術の高さなどから、「もう少し受注状況をみてください」との声もあがったが、木造住宅は競合企業があまりにも多く、激しい価格競争に巻き込まれていった。

社内でも惜しまれながらの撤退となったが、漫画ファンが集うオークションをみると、スクラムハウスののぼりが今でも注目商品として販売されている。木製のアトムという奇抜なアイデアは、意外なところで今も生き続けている。