100 Stories1958 大阪本店 新ダイビル

2009年に移転するまで50年余り旭化成の大阪本社(本店)があった新ダイビル。12頭の羊の守護神が象徴となっていたこのビルは、旭化成の歴史において、日比谷三井ビルと同様に重要な存在となっている。

1922年に旭化成の前身となる旭絹織は大阪市西区に本社を構えた。膳所工場を中心にレーヨンの製造販売で業績を伸ばしたこともあり、1929年には大阪ビルディング(ダイビル)に本社を移転した。この間、延岡に12万坪の工場用地を取得し、旭化成設立の初歩が刻まれていることも見逃せない。

この移転から29年後の1958年には、50年以上を過ごすこととなる、北区堂島浜の新大阪ビルディング(新ダイビル)へ移転。新ダイビルの4階にある12頭の羊には、設計者の村野藤吾(むらの とうご)氏が、誰からも愛されるビルとなるように、「直線的なビルから受ける固い印象を、丸味を帯びた羊の像と曲線的なオブジェによって柔らげることを狙った」という話が残っている。

新ダイビルで働いたことがある従業員は「羊の部分は執務室が凹んでいて、結構場所をとっていました。ブラインドを開けると、外から見上げる羊より大きく、可愛いというより恐ろしく、ブラインドをいつも閉めていたのを思い出します」と当時を語る。

ビルの屋上は開放されており、ランチ後の散歩や植栽で季節を楽しむ従業員もいた。地下は商店街となっており、社員食堂をはじめ、飲食店、服飾雑貨、食料品、ドラッグストアなど生活に困らないほど充実していた。「お給料日には同期入社で集まり、料亭「なだ万」のランチを食べることを励みに頑張っていました」という従業員もいた。出勤前のモーニングコーヒーから、おやつ、終業後の一杯まで、新ダイビルに勤務する従業員だけでなく、出張者やビルに用事があった人にとっても、大変便利なビルであった。

2009年5月に大阪本社は、中之島ダイビル(大阪市北区中之島)へ移転した。新ダイビルに入ってから50年という年月が過ぎており、1人の社員が入社から定年までを過ごす期間も優に超えていた。

この移転はビルの建て替えに伴ったものであり、新しいオフィスは堂島川を挟んだ向かいにある。2015年に竣工した、新しい新ダイビルの敷地の四隅には羊が保存されていて、出迎えてくれる。きっとこの羊たちは、川向こうの旭化成の従業員を今でも守り続けてくれているはずだ。