100 Stories1994 消臭アクリル繊維「スモークリン」

1980年代から90年代にかけて、繊維メーカーは、吸汗速乾、吸湿発熱、抗菌などの様々な機能を持つ⾼機能繊維の開発にしのぎを削っていた。旭化成はタバコ消臭機能を持つアクリル繊維「スモークリン」を1994年に上市した。

1994年当時、オフィスや公共施設は分煙が主流だった。「職場における喫煙対策のためのガイドライン(労働省)」が出される2年前のことである。しかし「スモークリン」は発表以来、予想を上回る反響を呼び、クッション、カーテン、カーペットなど次々と製品を展開した。

スモークリンのさらなる知名度アップと拡販を目的に、旭化成提供のテレビ番組「なるほどザ・ワールド」のCMを中心に、強力な宣伝活動を展開する。

同番組企画のCM「マジック・コマーシャル」では、トランプマンが得意のマジックでスモークリンの特徴と商品の数々を紹介。キャンペーンモデルを起用したCM「スモークリンな関係」は、ボーイフレンドの部屋をスモークリンで模様替えするストーリーだった。

スモークリン開発の背景となったのは、当時タバコの煙を好ましく思わない人が増加しており、分煙が進む中で少しでも臭いを取り除きたいというニーズに応えてのものだった。1996年にはオフィスや応接室のタバコの臭いを消す狙いで、スモークリンを使用した人工観葉植物を販売開始する。初年度は年間7万鉢30億円、2年後には24万鉢100億円を目指すとした。

大きな目標を立てた同商品を発売してすぐに、スモークリンが「日経優秀製品・サービス賞」で最優秀賞に輝く。タバコの臭いの成分を90%ほど消臭する「タバコ消臭」という新しい市場を創出したことが、今回の受賞に結びついた。

この自ら創出した市場をさらに活性化させるために、新たな商品展開として「スモークリン・ボックス」が1998年に新発売。消臭機能に特化し、コストを抑えてシンプルな形としたもので、タバコの臭いだけでなく生ゴミ、ペットの臭いなどにも消臭効果を発揮する。家庭、オフィス、病院、車内などあらゆる空間で利用でき、使用後は可燃ゴミとして捨てられるものとなった。

オフィスや応接室など、どこでもタバコが吸える環境から分煙化が始まり出した当時のトレンドを見て開発された「スモークリン」。この登場を機に他社でも同様な商品の開発が行われるようになるなど、まさに新たな市場を作り出した。何気ないアイデアと旭化成の技術力が合わさって100億円規模の市場をつくるきっかけとなった。

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