100 Stories2019 ノーベルウィークレポート

2019年に「リチウムイオン電池の開発」でノーベル化学賞を受賞した吉野彰。12月10日には授賞式がスウェーデンで開催された。受賞が発表された日、日本出発から授賞式や晩さん会、さまざまな行事とともに吉野のノーベル賞をレポートする。

毎年10月9日、ノーベル賞の発表日は、多くの報道陣と従業員が集まり、固唾を飲んで発表のアナウンスを待った。10年近く行われたこの「ノーベル賞発表」は恒例行事となりつつあった。

電池の中身は正極材や負極材、セパレータ、電解液などの材料の組み合わせ技術であるが、その組み合わせこそが電池の特性を決める重要な技術である。吉野は技術開発に関する海外の主たる賞はすでに受賞していたが、ノーベル賞に限って受賞は難しいのではないかという空気もながれていた。

しかし2019年の秋は違った。「ドクター、アキラ・ヨシノ」というアナウンスがあったのだ。世界で吉野の研究が認められた瞬間だった。

吉野が言っていた言葉がある。「社内に認められる研究者を目指すのではなく、社外に通用する研究者を目指せ」。この言葉は、「研究開発では研究予算を取ることも必要ではあるが、きちんと社会に貢献するものを世の中に送り出す。そうすることが社外の評価にもつながり、他社が欲しがる技術者になれる。他社が欲しがる技術者になれば、社内にも認められる」という教えなのだ。

ノーベルウィークは、毎年12月10日に行われるノーベル賞授賞式の前後の期間のこと。受賞者による講演など多くのイベントが目白押しだ。

12月5日、ストックホルムに出発
出国前の記者会見で「緊張はない。ふわっと空に浮かんでいるような感じ」と笑顔で心境を語った。

12月6日、ノーベル博物館に展示品を寄贈/恒例のビストロノーベルの椅子にサイン/燕尾服のフィッティング
金色のペンで、一度試し書きをしたあと、ほかの受賞者のサインを見て書く場所を確認してから、漢字で思い切りよく「吉野彰」とサインした。

12月7日、王立科学アカデミーでの会見/日本人補習校を訪問/王立科学アカデミー主催ディナー
「変革によって世界は変わるのです。その世界にあなたたちが飛び込んでいくのです」と小学生らにメッセージを送る。

12月8日、ノーベルレクチャー(基調講演)/日本大使館主催のレセプション&記者会見/ノーベル賞コンサート
ノーベルレクチャーは一般市民も参加できる唯一の行事で、「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」と題して約1,000人の前で講演した。「企業研究者の私がノーベル賞をとることで、企業の若い研究者の励みになる」と話した。

12月9日、現地中学校を訪問/財団&王立科学アカデミー主催のレセプション
地元の中学、高校でのレクチャーでは「電池が環境問題の解決への一つのカギである」と語った。

12月10日、ノーベル賞授賞式/晩さん会
「リチウムイオン電池が持続可能な社会の実現に貢献しなければならないという責務を課せられたと感じた」と振り返った。「研究が一つの目標点に達したことがメダルの重みから感じられた」、晩餐会では「やっと実感がわいてきた」と語った。

12月11日、文部科学大臣主催昼食会/王宮晩餐会
王宮晩餐会では、ディナーは前菜・メイン・デザートの3品のコースで、趣向を凝らした料理が並んだ。西洋人?らしく、同席した人たちで料理ではなく会話を楽しむのが目的だ。

12月14日、帰国
ストックホルムでの一連の行事を終え、12月15日午前(日本時間)に帰国。「ノーベルレクチャーや授賞式、晩さん会が順調に終わり、ホッとしています」と記者会見で心境を語った。

最後にもうひとつ吉野の言葉を紹介する。「致命的な欠点がなければ、技術的に尖っているところをとことん磨け」、致命的な欠点は常に確認するが、小さな欠点を潰して平凡になるのではなく、尖っている部分で圧倒的な差別化を目指せということである。