100 Stories1985 スパンデックス「ロイカ」

1971年に事業を開始したスパンデックス事業は、2021年に50周年を迎えた。スパンデックスとはポリウレタン弾性繊維のことである。ポリウレタンは1940年ごろドイツで開発された合成繊維のひとつで、ゴムのような伸縮する性質を持つ。その優れた機能性から、1970年代には運動用靴下やパンスト、ハイソックスそして紳士用靴下へ、さらにはジーンズ、コーデュロイなどの外衣アパレル分野でも使われるようになった。

スパンデックスは、特にスイムウェアなどのスポーツウエアに使用する場合、ナイロンに約15%のスパンデックスを交撚することになる。これはナイロンの安定的事業運営としての意義も大きい。同時に用途の多様化と品質の高度化、また将来の拡販を可能とするためには、根本的に品質についての検討が必要であるとして1977年に「Σ(シグマ)プロジェクト」が編成される。

このプロジェクトには、技術研究所や工場生産技術部の精鋭、繊維加工研究所のベテラン、工場の開発陣が総動員された。ポリマーの解析から新しいポリマーの設計、強度・染色性など要求にこたえる高品質な糸の開発など、日夜を分かたず努力をして成果をあげ、1978年末にパイロット研究を終えた。

当時のスパンデックス事業部長は「この1年間の最大の喜びを挙げるとすれば、このΣプロジェクトの活動を通じ、我が社研究陣のレベルの高さを再認識し得たこと。そして困難な目標であれ、一つの目標にひたむきに邁進する旭化成魂とも言うべき崇高な愛社精神をそこに見たことである」と語っており、Σプロジェクトが成功であったことを物語っている。

そうして出来た新生スパンデックスの名称を募集し、1980年「ロイカ」に決定。しかし、東レ/デュポン社が販売するスパンデックス「ライクラ」が大きな壁として立ちはだかっていた。「ロイカ」が「ライクラ」に勝てない理由として、社内では「PTMGの分子量分布がシャープでないため物性が出ない」と説明、当時その研究は社内では中止されている状態であったため、再検討の指示が出されたのだ。

直ちに調査を開始し、失敗も乗り越えながら1983年に新技法でのPTMGの製造法を確立し特許出願に至った。この成果をロイカ工場にも報告し、新技法でのPTMGを使ったロイカ糸をつくる試験が行われ、糸物性が低温弾性であることを始め、優れていることが工場のテスト装置で確認されたことにより、この方法に絞って検討を開始することとなる。

1984年にはロイカ工場が製造の準備に入り、12月の経営会議では企業化提案が承認された。そして1985年7月1日CVプロジェクトがキックオフし、1986年に工事完成。CVプロジェクトは解散、ロイカ工場へ全面的に引き継ぐこととなった。

その後は中国やタイにも生産拠点を設置するなど拡張を続けた「ロイカ」。2016年にはスパンデックスとして世界初の「グローバルリサイクルスタンダード」認証を取得、サステナブルな糸として様々なニーズに合った製品の展開を続けている。

  • CVプロジェクトメンバー(1985年12月)