100 Stories2011 旭化成グループの理念体系制定

「私たち旭化成グループは、世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します」
これはどのような経緯で制定されたのだろう?

2003年の分社・持株会社制への移行では、各事業が業界で勝てる強固な体質になることを目指し、キャッシュフローを重視した自律的な経営を進めた。この結果、各事業、グループ全体ともに、赤字事業は最小化され、筋肉質な事業体への転換という目的は達成された。しかし分社化の当初の目的であった90年代の低成長からの脱却、グループとしての成長の実現の点では決して満足できるものではなかった。

加えて、2007年頃より世界金融危機が始まり、金融に依存した経済の限界が取り沙汰されるようになった。社長の蛭田史郎は、金融危機というトンネルの先に広がる全く異なる世界で、当社グループの新規事業展開のダイナミズムを取り戻したいという考えを経営層に共有し、問題提起を行った。
同時に激動の時代においてもブレない経営判断の軸を据えるため、また、分社化で希薄になったグループの一体感を再構築するため、原点に立ち返ってゴールを明確にすることが必要だと考えた。
そこで、グループ役員を中心に議論を重ね、各グループ役員から次世代に残していきたい価値や強みについてアンケートをとり、旭化成グループの軸を浮き彫りにしていった。具体的には、(2009年5月の役員フォーラムと、6月の領域役員ミーティングでは、)旭化成グループが数十年に一度の大きな転換点を迎えていることについて認識を共有し、10年後の旭化成の目指す姿、そして「成長機会」と「機会実現のための旭化成グループの強み」をディスカッションした。8月には領域担当の各役員が、旭化成グループの強みについての考えを提示。また、外部コンサルタントを活用し、役員の個別インタビューや合宿で幾度となく議論した。

2010年1月頃には、今後どのような事業展開を行う企業になったとしても、グループの存在意義(ミッション)は「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」ことであり、DNAとして引き継いでいく共通の価値観(バリュー)は「誠実」「創造」「挑戦」であることが合意されていく。

そして2010年4月に社長に就任した藤原健嗣が、創業者の理念やフロンティアスピリットを現在に生かすことの重要性を意識し、ミッション、バリューに加え、時代の要請に合わせて目指していく事業活動の方向性として「環境との共生」「健康で快適な生活」というビジョンを掲げた。これをもとに中期経営計画が策定され、2011年4月に旭化成グループ理念、バリュー、ビジョン、スローガンが決定し、5月に発表された。

それまでも旭化成は1996年、2001年と経営理念を制定してきたが、なかなか従業員に浸透しなかった。しかし2011年に制定したグループ理念は、世界中の従業員に浸透している。それはなぜか。制定のプロセスで経営戦略室長を務めた柴田豊は、3つを挙げている。

1つ目は2012年のZOLL社買収を皮切りとした海外企業の大型M&Aにより学んだこと。欧米企業にとっては企業理念が存在することは当たり前であり、会社の説明はまず企業理念から始まる。こういった姿を旭化成の経営陣も目の当たりにして、グローバルに企業が発展していく上での企業理念の重要性を改めて強く認識することになった。
2つ目は、藤原を委員長に、経営戦略室、人事部、広報室を事務局としたoneAK委員会を編成し、経営層だけでなく従業員にまで、エンゲージメントの向上や一体感醸成につながる浸透活動をグローバルに展開したこと。
そして3つ目は、社長の藤原がメッセージを発信し続けたこと。

旭化成は、これからもグループ理念を経営の基軸とし、常にその実現を目指す経営を続けていく。それが創業以来変わることのない旭化成のあり方だと言えよう。