100 Stories2016 欧州市場を開拓するAKEUの立ち上げ

自動車素材の主流は鉄。2010年代後半に差し掛かり、そんな常識が欧州から崩れようとしていた。

あくまで鉄にこだわる日本車と、鉄以外へのシフトに積極的な欧州車。日本の化学大手が相次いで欧州自動車向け市場開拓に向けた拠点を開発し、軽量化をめぐる素材の攻防は新たな展開を見せ始めていた。

ヨーロッパの拠点は、1964年11月、ドイツのハンブルグに事務所を設置したことに始まる。所長以下5名の駐在員、ほかにフランクフルトにも駐在員を派遣、駐在員はおのおの数か国を担当し、通信網を活用した連携プレーで、繊維中心の販促活動を25か国で行っていた。

その後1981年4月に、旭化成ヨーロッパ(N. V. Asahi Chemical Industry)を感光材の販社を発展的に改組・拡大し、ヨーロッパ地域における統括会社としてベルギーに設立したが、2009年に清算した経緯もある。

2016年4月、満を持してドイツ・デュッセルドルフに「旭化成ヨーロッパ」(AKEU)を開設。ドイツで自動車に使う部材の開発提案から営業までを手がける拠点となる。

売り込むのは、環境対応や自動運転に貢献できる高機能樹脂やタイヤ用合成ゴム、電池用セパレータ、電子デバイスなどである。

例えばナイロン系の「レオナ」樹脂。分子構造を工夫して高温、振動に強い性能を持たせ、エンジン周りの素材としての用途を開拓したものだ。エンジンオイルを入れるオイルパンの素材は鉄をはじめ金属製が主流だが、樹脂にすれば6割軽くすることができる。

2016年6月には現地の自動車・部品大手の関係者ら約200人を集めたオープニングイベントを開催。会場の決定、日本や欧州の社内外のお客様を呼ぶ段取り、式次第などが、開設後わずか2か月という急ピッチで行われた。イベントには在デュッセルドルフ日本総領事館の水内総領事、デュッセルドルフの副市長も来席し、盛会となった。

この時のAKEUの体制は従業員44名。当時の旭化成副社長の小林友二は「欧州の自動車産業は先進的な働きや技術の担い手として高く評価している」と語り、欧州での部材採用が他地域でのビジネスにもつながると期待を寄せた。

オープニングイベントから2ヶ月後の2016年8月には、マテリアル領域の研修会を開催する。この研修会には日本から小林をはじめとする多くのVIPや、アサヒフォトプロダクツ、AKSEからも参加があり、貴重な意見を得る機会となった。

中でも、「欧州R&Dセンター設立」と「広報担当の設置」は即座に実現することとなる。
研修会から半年と経たない2017年1月には広報担当を設置。翌月には社会貢献活動の一環として、海外では初となる柔道教室「Asahi Kasei Judo Workshop」を開催した。

旭化成の社会貢献活動では「次世代育成」と「文化・芸術・スポーツ振興」を掲げており、柔道は日本発祥な上にドイツでも普及していることから、まさに打ってつけの活動と言える。

講師は旭陽会柔道部、オリンピックメダリストの大野将平(おおの しょうへい)選手と永瀬貴規(ながせ たかのり)選手が務めるという豪華な陣容だ。合計184名の参加者に加え、デュッセルドルフ市長も訪れた、この柔道教室の様子は企業広告「君たちが未来だ」シリーズに収録されている。

さらに、欧州における自動車用途、環境・エネルギー関連等の先端技術情報の収集・蓄積と、旭化成グループの研究開発力を活用した新事業開発の加速を図るため「欧州R&Dセンター」をドルマーゲン市に開設した。

この開設によりAKEUと連携し、サービスをさらに迅速かつ効率的にすることを可能にした。2020年には、効果をより高めるためにAKEUと同じデュッセルドルフ市内に移転することを決断。研究開発と営業担当や顧客とのコミュニケーションを活性化し、欧州完成車メーカーなどからの受注拡大につなげている。

スタート当初は44名だったAKEUも2019年には100名規模となった。基盤固めから具体的なビジネスへ移行していく段階となったAKEUは、当初の計画である2025年度に1500億円規模となるために邁進し続けていく。

  • ハンブルグ事務所内部(1960年代)
  • 2020年に移転した、旭化成ヨーロッパ外観