100 Stories1974 ベンベルグから始まった医療事業

旭メディカルが設立された1974年、旭化成は世界で初めてキュプラアンモニウムレーヨン中空糸膜を使用した人工腎臓の開発に成功し、医療機器事業への第一歩を踏み出した。

腎臓は血液中に溜まった有機物を尿として排出する機能を持っている人間にとって重要な臓器である。この腎臓の機能が停止すると人間は三日間で死亡すると言われているほどで、機能に異常があった場合は即座に人工透析の実施が必要となる。

旭化成で人工腎臓の研究が開始されたのは、1971年のこと。ベンベルグ工場研究課によりベンベルグの新しい用途開発が進められていたが、人工腎臓のキーパーツとなる濾過に適していることがわかり、そこに着目したことがきっかけだった。

ところが、ドイツでキュプロファンという、キュプロ(再生セルロース繊維)製のフィルムが生産されていたことが発覚。同一素材による製品の開発は意味がないとの判断から、フィルムの開発は断念した。しかしフィルムの代わりに中空糸が有効であることが判明し、中空糸による研究に切り替えた。

完成すれば従来の人工腎臓に比べ小型で取り扱いやすく、血液の凝固が極めて少ない使い捨てタイプとなる。そのうえ、これまで6~7時間かかっていた1回の治療時間が約半分で済み、製品コストも大幅に削減できる見通しだった。

この技術は1974年に開発されたが、50年近くが経った現代でも進化した製品を提供し続けている。1980年代にかけては、難病治療向けの血液分離アフェレシス製品を多数開発。1985年に白血球除去用血液フィルター「セパセル」、さらに1989年にウイルス除去フィルター「プラノバ」の開発に相次いで成功している。

旭化成のコア技術をもとに着実に製品開発を進め、市場開発に取り組んできた医療機器事業。それと並行して、オーガニックな成長だけではなく、2002年テルモ社よりダイアライザー事業を譲受、2003年には医療機器や用具の販売を行っていた旭エマースを統合した。

2005年にブラノバ事業をメディカルへ移管、翌年にはクラレとクラレが製造販売するEVOH樹脂を用いた医療用中空糸膜の製造会社を共同出資で設立するなど、積極的な市場拡大に取り組んだ。

人の“いのち”に直接貢献できる製品を産み出した医療事業。その起点となった1974年の人工腎臓の開発と、その後の開発ラッシュは特筆すべきことである。日々医療技術は進歩し、より豊かな生活が送れるようになってきているが、「病気と向き合うすべての人々とともに」をミッションに掲げるメディカルは、日々直接あるいは間接的に世界の人々の命を救っている。

  • 初期の中空糸膜人工腎臓