100 Stories2003 スマホを支える技術!電子コンパス

現代に欠かせないツールとなったスマートフォン(以下スマホ)。2010年頃から普及し始めて、2021年には携帯電話保有者の約9割がスマホを使っている。スマホの普及でSNSが流行り、様々なアプリの登場で依存症が懸念されるほど、生活の一部となった。

スマホがなかった時代には、電車の乗り継ぎにも苦労し、旅行先で行きたい場所にたどり着くのも一苦労。今ではスマホ一つあれば、地図アプリなどでナビゲーションしてくれる。

このナビゲーション技術を支えているのが、旭化成が開発した電子コンパスである。方位磁石の針と同様に方位を地磁気センサーで検知するだけでなく、進行方向の方位角まで計算する機能性電子部品だ。

2000年、中央技術研究所主幹研究員の山下昌哉は開発を始めると、まずデモ機を作り、開発企画を通し仕様を決めた。デモ機だけを持って日本中の携帯電話メーカーを飛び回り、約1年間の技術マーケティングを敢行。その結果をもとに「3軸の磁気センサーとデジタル・インターフェースを組み込んだ電子コンパス」という世界初の挑戦的な仕様が決定した。

電子コンパスは、携帯電話を使う人の自然な動きだけを利用し、常に変化する妨害磁場の大きさを計算してナビ機能をリアルタイムにコントロールし続ける。特許も取得したこの技術こそがIoTのはしりとも言えるイノベーションを引き起こした。

これらの評価は世界に比肩するものがなく、瞬く間に急成長。以降、世界のトップシェアを維持し続け、年間約6億個を出荷するビッグビジネスにつながった。

“ミスター電子コンパス“と呼ばれる開発者の山下は、この成功のキーポイントをこのように語っている。

「ほとんどの技術者は自分の技術領域を掘り下げることに関心が強く、発想が異なる離れた技術領域には近づかないものです。そこにチャンスがあると思います。全く異なる領域を三つ以上融合させるコンセプトが描ければ、他社が追従したくないと思うような発想の飛躍が生まれるんです」

電子コンパスでは、ホール素子という磁気センサーの材料技術をベースとしながらも、ソフトウェアやサービスなど通常の開発プロセスなら全く絡まない分野の技術を融合させたのだ。

山下は同様の理論で、旭化成という会社のポテンシャルの大きさを説いている。

「今や世界中の技術者はほぼ同水準の教育を受けられる時代です。一つの分野を掘り下げても大差はつきません。その点、旭化成は様々なジャンルに精通した社員が多く、異質な技術が社内で融合する可能性が非常に高い。新しいものを生み出せるポテンシャルを秘めていると思います」

  • PDAデモ機