社史編纂通信 vol.4 2020年1月旭化成のリチウムイオン電池事業

2019 年12月10日、名誉フェローの吉野ら3名が、リチウムイオン電池(LIB)の開発に関する研究開発の功績が称えられ、ノーベル化学賞を受賞しました。

リチウムイオン電池は、正極、負極、電解液、セパレータの4つの主要部材で構成されますが、吉野が取得した基本構造の特許は、負極に炭素、正極にコバルト酸リチウムという、全く新しい正負極材料の組み合わせを考案したことによります。LIBの開発から事業化までの経緯についてご紹介します。

導電性高分子の研究から始まった 1980s

旭化成が新型二次電池の基礎研究に着手したのは1980年頃、吉野が電気を流すプラスチック「ポリアセチレン」の研究を始めたことによります。

83年にはコバルト酸リチウムを正極、ポリアセチレンを負極とする、新型二次電池を考案し、これが現在のLIBの原型となっています。その後、化学的に不安定なポリアセチレンに代わり、高い容量密度を持つ炭素材料を負極にすることを考案し、1985年に特許を出願、LIBが誕生しました。

同時に試作とユーザー評価に着手し、1980年代後半には実使用化できるレベルの試作品を作製、安全性や生産性の確認などを行いました。

  • 1983年に試作された電池第1号のレプリカ

事業化とライセンス事業 1990s

事業化のスピードアップのため、1991年からは東芝とともに安全性の技術開発を行い、翌年には東芝と共同出資で株式会社エイ・ティーバッテリー(A&TB)を設立し、93年4月にソニー向けにハンディカム用電池を初出荷しました。

A&TBは、1996年には高容量製品を開発、本格生産に入り、同年度から黒字化、さらに98年には量産ラインを新設して、売上高300億円、マーケットシェア15%の事業へと成長しました。

吉野が開発したLIBは、従来の二次電池が放電しきらないうちに途中で充電すると劣化する、という欠点をクリアする発明でした。当初のターゲットは8㎜ビデオ用電池でしたが、1990年代半ばになって電子機器のポータブル化と急速な普及、さらに携帯電話の普及が進んだことにより、二次電池に対してもいっそうの小型化や軽量化が望まれるようになり、市場は大きく広がりました。

  • A&TBのLIB

ライセンス事業から材料事業へ 2000s

2000年に所有していたA&TBの株式を東芝へ売却、旭化成はLIB事業からは撤退しましたが、A&TB設立と同時に単独で立ち上げたライセンス事業は、A&TBのコンペティターにも積極的にライセンスを行い大きな収益をもたらしました。

またLIB材料事業は、繊維加工、フィルム加工の技術の応用から生まれたセパレータ事業を中心に成長し、現在はセパレータの世界No.1メーカーとしての地位を築いています。初めは乾電池のような形だったLIBは、スマートフォンや電気自動車への採用とともに、大容量化、薄型化が進み、現在ではラミネート型も開発されています。

  • ラミネート型LIB(レプリカ)

旭化成はバッテリーセパレータでもシェア世界一!「ハイポア」「セルガード」

セパレータは電池内で正極と負極を隔離し、微細な孔からリチウムイオンを通過させることで充放電させる役割を担っています。旭化成は携帯電話やノートパソコンなどの民生機器用LIB向けで世界一のシェアを持つセパレータのメーカーです。

  • 「ハイポア」の電子顕微鏡写真