プレスリリース
ART-123の海外における第3相臨床試験結果(速報)について
2018年8月2日
旭化成ファーマ株式会社
旭化成ファーマ株式会社(本社:東京都千代田区、社長:青木 喜和)は、当社の100%子会社である旭化成ファーマアメリカ(Asahi Kasei Pharma America Corp.本社:米国マサチューセッツ州ウォルサム、社長:高田 実)がART-123(一般名:トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え)、日本での販売名:「リコモジュリン」)について、「凝固異常を伴う重症敗血症」を対象として実施していた第3相臨床試験(SCARLET試験)の結果(速報)を得ましたのでお知らせします。
SCARLET試験は、「凝固異常を伴う重症敗血症」患者800例を対象として本剤の有効性と安全性を検証することを目的とした無作為化、二重盲検、プラセボ対照の国際共同第3相臨床試験であり、北米、南米、欧州、アジア・オセアニア(日本を除く)などの地域で実施したものです。
SCARLET試験の対象は、心血管系機能障害若しくは呼吸機能障害を有する敗血症で、凝固異常(PT-INR>1.4かつ、血小板数が30,000/mm3より多く150,000/mm3より少ない若しくは24時間以内に30%を超える減少)を伴う患者です。本開発で目指す適応症は、凝固異常を伴う重症敗血症であり、本剤の日本国内の適応症である汎発性血管内血液凝固症(DIC)とは異なります。
SCARLET試験において、主要評価項目の「28日後の死亡率」について対照群との間で統計学的な有意差は認められませんでした。28日後の死亡率は、本剤群26.8%(106/395症例)、対照群29.4%(119/405症例)で、その差は2.6%でした。統計学的有意差が認められなかった原因の考察としては、治験登録時から治験薬投与開始までの間に凝固異常が改善した患者、並びに6回投与の予定に対して半分以下の投与しかできなかった患者が、登録患者の一部に含まれており、この点が試験結果に影響を及ぼした可能性が考えられます。
当初より予定されていた解析(下記1項)並びに追加解析(下記2項)から、以下のような結果がこれまでに得られています。
- 1.血液凝固マーカーであるD-ダイマー、トロンビン-アンチトロンビン複合体、プロトロンビンフラグメントF1+2濃度、並びに血小板数の推移について、後期第2相臨床試験時と同様に対照群と比較して改善が見られました。
- 2.本剤投与直前までPT-INR並びに血小板数のクライテリアを満たしていた患者(約600例)では、本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は4.5%以上でした。なおこの中で、治験薬を4回以上投与できた患者(約450例)に限ると、本剤群と対照群間での28日後の死亡率の差は約7%でした。
これらの解析に加えて、種々の解析を現在実施しております。今後、解析結果を総合して、本剤の「凝固異常を伴う重症敗血症」に対する有用性の可能性を、慎重に判断していく予定です。
また現段階において、新たな安全性の懸念は認められていません。
当社は、今回結果を得た28日後の死亡率のみならず、90日後の死亡率の解析等、引き続き試験結果についての詳細な解析を行い、規制当局と協議してまいります。本試験結果の詳しい内容は、今後学会等で報告予定です。
ご参考
用語のご説明
- 1.ART-123/「リコモジュリン」
遺伝子組換え技術を用いて生産したヒトトロンボモジュリン製剤。トロンボモジュリンは、血液凝固の原因物質であるトロンビンの生成を抑えることにより抗凝固作用を発揮する。また、トロンボモジュリンは抗炎症作用ももつことが近年報告されている。2008年に汎発性血管内血液凝固症(DIC)の治療薬として日本国内で承認されている。
- 2.凝固異常
一般に全身的な血液凝固の異常な亢進がある状態を指す。敗血症における凝固異常は、エンドトキシンなどによる炎症性サイトカインネットワークの活性化を介して凝固系の過度の活性化によって引き起こされる。
- 3.敗血症
「敗血症」および「敗血症性ショック」は、「敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第3版(Sepsis-3)」により、以下のように定義されている。
- 敗血症は、感染に対して宿主生体反応の統御不全により臓器機能不全を呈している状態(従来の定義の重症敗血症に相当)。
- 敗血症性ショックは、敗血症のうち、循環不全と細胞機能や代謝の異常により、死亡率が高くなった状態。
- 4.SCARLET:Sepsis Coagulopathy Asahi Recombinant LEThrombomodulin
一般に全身的な血液凝固の異常な亢進がある状態を指す。敗血症における凝固異常は、エンドトキシンなどによる炎症性サイトカインネットワークの活性化を介して凝固系の過度の活性化によって引き起こされる。
- 5. PT-INR(prothrombin time-international normalized ratio; プロトロンビン時間国際標準比)
血液の凝固異常を評価する血液検査値の一つで、外因系及び共通系の凝固異常を判定する指標である。PT-INR>1.2が凝固異常とされ、SCARLET試験では後期第2相臨床試験の結果に基づいて適切な患者層を選択するため、PT-INR>1.4を登録基準に採用した。
- 6.28日後の死亡率
治験薬投与開始後28日以内に死亡が確認された症例の割合。なお28日後の転帰が不明の症例は本剤群、対照群それぞれに1例ずつであり、治験責任医師の評価では、被験者と最後に連絡が取れた時点の健康状態から28日後に生存している可能性が高いと判断されている。
- 7.D-ダイマー
血液の凝固異常を評価する血液検査値の一つで、二次線溶の亢進を知る指標である。血栓が分解されるといくつかの過程を経過して最終的にD-ダイマーが生成される。
- 8.トロンビン-アンチトロンビン複合体
血液の凝固異常を評価する血液検査値の一つで、血液凝固系の活性化を知る指標である。血液凝固を促進するトロンビンとその生理的阻害因子であるアンチトロンビンとの複合体である。
- 9.プロトロンビンフラグメントF1+2
血液の凝固異常を評価する血液検査値の一つで、血液凝固系の活性化を知る指標である。血液凝固を促進するトロンビンの前駆物質であるプロトロンビンの分解産物である。
以上