生物多様性保全

方針

旭化成グループは、事業活動において生物多様性に配慮し、生物多様性に及ぼす影響を軽減し、生物資源の持続可能な利用に努めることを方針とし、具体的な取り組みを「生物多様性保全に関するガイドライン」に定めています。このガイドラインに基づき、2010年度より事業活動と生物多様性との関わりの把握に取り組んでいます。また、生物多様性に配慮した事業活動を行うよう、環境安全教育等を通じて従業員の意識啓発を図っています。

当社グループ生産拠点における自然関連のリスク・機会の評価

当社グループは、TNFDが自然関連のリスク・機会の評価手法として推奨する「LEAPアプローチ」に沿って、評価作業を進めています。
“Locate”フェーズにおいて、TNFD推奨ツール:ENCOREのデータを参照し、直接操業の産業プロセスごとの自然への依存・影響の大きさを確認しました。分析の結果、自然への影響が大きくまた売上高でも大きいマテリアル領域を中心に評価を行いました。また、直接操業拠点を対象に、TNFD推奨ツール:IBATやResource Watch、ENCOREなどを参照し、TNFDが設定した5つの基準「保全重要度」「生態系の完全性」「生態系の完全性の急速な劣化」「水ストレス」「潜在的な依存影響の大きさ」に沿って優先地域の評価を実施しました。
“Evaluate”フェーズにおいて、「TNFD化学セクター向けガイダンス」「ENCORE」「同業他社のESGレポート」「外部レポート」等の情報を活用して、重要な依存・影響を特定しました。また、依存・影響の大きさを把握するために、これまで収集、開示してきた環境パフォーマンスデータを整理し、拠点ごとのデータを参照することで、依存・影響の大きい拠点を確認しました。
“Assess”フェーズでは、「TNFD化学セクター向けガイダンス」や、国際機関等の関連レポートを参考に、サプライチェーン(上流、直接、下流)と由来(依存、影響)の6象限上で、自然へのリスクと機会を抽出し、その大きさと発生可能性、発生時間軸で定性評価を行いました。また、これまで対応してきた「気候変動」「資源循環」「汚染」の領域との関連性も整理しました。
今後は、自然へのリスクと機会を日常の環境管理に活用するとともに、“Prepare”フェーズでその対応策を検討します。

  • TNFDTaskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース。自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために2021年に設立された国際的組織。
  • 既に着手済み Locate:評価・開示の優先地域の把握 Evaluate:自然への依存・影響の評価、Assess:自然関連のリスク・機会の評価、今後検討 Prepare:リスク・機会への対応と開示

「自然共生サイト」の認定

30by30※1目標達成に向け、企業の緑地等で保全されてきたエリアをOECM※2として認定する取り組みを進めるため、有志の企業・自治体・団体の方々によって2022年4月に設立された「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加し、静岡県富士市の「あさひ・いのちの森」が2023年度前期の「自然共生サイト」※3に認定されました。

30by30アライアンス

  • ※130by30
    2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標。
  • ※2OECM
    OECM(Other Effective area based Conservation Measures):保護地域以外で生物多様性保全に資する地域
  • ※3自然共生サイト
    環境省が2023年より開始した「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を環境大臣が認定する制度で、2023年度に全国(35都道府県)で「あさひ・いのちの森」を含む122カ所が認定されました。

調達における生物多様性とのかかわり調査

当社グループの原材料の新規利用および変更に伴う事業活動と生物多様性のかかわりについて、「事業活動と生物多様性とのかかわり調査票」を用いて、「原材料の原産国」「加工・製造業者」「一次ベンダー(商社等)」の調査を行い、問題がないことを確認しています。

当社グループにおける生物多様性保全の取り組み

  • 旭化成グループ 「まちもり」アクション

「まちもり」アクションとは

「まちもり」ポットをツールとして、当社グループ全体の事業所緑地を対象に、生きものたちの視点で価値の向上を図るとともに、当社グループ従業員の生物多様性保全に対する理解と認識を高める取り組みです。

「まちもり」ポットとは

旭化成ホームズが開発した新しい外構アイテムで、高木・中木・低木・地被植物の高さの違う4層の植物を組み合わせ、都市の住宅地に設置できるコンパクトさを持ちながら、緑の少ない人工的な環境でも生きものたちの利用空間を増やすことができます。さらに「まちもり」アクションでは、全国の事業所において、植物社会学的手法による地域区分を行い、地域植生に配慮した「まちもり」植栽を行っています。

  • 鳥やチョウがやってくる! 高木:高さ2m×1本 開花や紅葉で四季を感じる! 中木:高さ1m×1本 低木:高さ0.5m×2本 草木:8株
  • まちもり地域区分凡例 えぞ・むつ地域 関東地方 沿岸北部 内陸部 沿岸南部 フォッサマグナ地域 内陸部 沿岸部 日本海地域 東北部 南西部 美濃・三河地域 阿哲地域 ソハヤキ地域 瀬戸内東部 瀬戸内西部 紀伊 四国 九州北部 九州南部 ●は事業所の所在地

「まちもり」アクション 2019~2023年度の実績

  • 「まちもり」ポイント(MMP)とは 各事業所での取り組みを4つのステージに区分し、各取り組みに対して「まちもり」ポイントを付与し、当社グループ全体で集約します。
  • まちもりポイント累計(累計+企画累計)2019年度1,090、2020年度2,465、2021年度3,747、2022年度4,488、2023年度5,601
    「まちもり」ポイント累計
ステージ 取り組み内容(例)
Stage1:設置する
  • 「まちもり」ポットを設置
  • 「まちもり」ポットの説明を掲載
  • 適切に管理する(枯らさない)
Stage2:観察する
  • 幹の太さと樹高を記録
  • 花や果実、紅葉等を記録・撮影
  • 「まちもり」ポットに来た動物を記録・撮影
  • 自然に芽生えた草木を記録・撮影
Stage3:発信する
  • 事業所内外に対して、動植物の観察記録や写真等を積極的に情報発信
    (HP・掲示板、地域とのコミュニケーションetc.)
Stage4:発展する
他の場所への取り組み
  • 他の場所への取り組み拡大
  • 他の事業所内外のイベント等とのコラボレーション

2023年度企画:「まちもり」生きもの“色” ウォッチングの開催

事業所内の緑地や「まちもり」ポット周辺、自宅の庭、近所の公園、道端など身近な場所の自然を感じる機会として、従業員を対象に、2023年度は生きものの色の観察を通して、生き残りの戦略について考える、期間限定の企画を開催しました。 今回の取り組みでは、7月16日~9月15日の前期、9月16日~11月15日の後期に分け、植物や動物の配色や模様の特徴を投稿してもらいました。
4カ月間の取り組みの結果、投稿304件(993MMP)、植物146 種類、動物63 種類を記録することができました。すべての投稿写真の生きものの色を大まかに14色に分けて集計した結果、最も多かった色は「緑」、次いで「黄緑」となり、撮影対象として多かった花や果実は「白」「黄」「紫」「桃」「赤」など人にも目立つ色が多くなりました。誰かにアピールするために目立つ色をしていると考えられるものが全体の6割ほどを占め、身を隠すために地味な色をしていると考えられるものは2割ほどで、生き残りのために目立つ色をした生きものの方が多いということを学びました。

2023年度各地区の主な取り組み

守山地区の取り組み
絶滅のおそれがある淡水魚「ハリヨ」の生息域外保全活動・企業ならびに地域と協働でのトンボの保全活動

守山製造所は、地下水をくみ上げ工業用水として利用しています。設備の間接冷却水として利用した地下水は水質監視を行い、排水として周辺の河川に放流しています。守山製造所の放流水は、農業用水としても利用され、地域の農業や水辺の生きものに欠かせない水となっています。このような背景を踏まえ、生物多様性と事業活動が深く関係している「水」をテーマにした生物多様性保全活動を2010年度から開始しました。
2015年度からは絶滅のおそれがある淡水魚「ハリヨ」の生息域外保全活動を、2016年度からは滋賀県に事業所を持つ企業や地域と協働でトンボの保全活動を、それぞれ開始しました。
2023年度は、従業員とその家族および近隣自治会を対象としたビオトープ(もりビオ)での大規模な観察会を実施しました(参加人数60名)。観察会では、専門家のサポートのもと、ビオトープに生息するハリヨやトンボの観察、見つけた昆虫のスタンプラリー、トンボのコンテナビオトープ作りを実施するなど、楽しみながら生物多様性保全を学ぶ良い機会を提供できました。また、観察会後は子どもたちに滋賀県の食材の良さを知ってもらうために、地産地消の食材を使った昼食会を催しました。
滋賀県内に事業所を持つ企業と連携して取り組む「トンボ100大作戦~滋賀のトンボを救え!」(主催:生物多様性びわ湖ネットワーク)では、地域との協働でトンボの生息状況調査ならびにコンテナビオトープを用いた保全に取り組んでいます。生物多様性びわ湖ネットワークでは各企業が推しトンボを決めて保全をしており、旭化成は湿地に生息するトンボ「マイコアカネ」を保全しています。2023年度は残念ながら成体の定着が確認できなかったため、コンテナビオトープの増設、卵の放流などを実施して2024年度の成体定着を目指しています。さらに、生物多様性びわ湖ネットワークの活動は、定期的に琵琶湖博物館で展示やイベントを開催し、地域の方々に私たちの取り組みおよび生物多様性保全の重要性を知ってもらう機会を提供しています。
引き続き、もりビオでの保全活動や生物多様性びわ湖ネットワークでの活動を通じ、生物多様性保全に取り組みます。

  • 「もりビオ」での観察会の様子
  • 琵琶湖博物館での展示の様子

旭化成住工の取り組み
森と水をつなぐ東近江の暮らし再発見プロジェクト

旭化成住工滋賀工場では、周辺のトンボ調査の結果から、近年、生息環境が悪化し絶滅のおそれがある滋賀県レッドデータ・重要種であるヨツボシトンボを対象(推しトンボ)として、2017年6月に滋賀工場敷地内に創出した「湯屋のヘーベルビオトープ」を中心に保全活動を行っています。
2023年度は、4年ぶりに従業員とその家族を対象としたビオトープ(湯屋のヘーベルビオトープ)での観察会を実施しました。観察会では専門家の解説やサポートを得ながら、「まちもり」生きもの "色" ウォッチング開催に合わせて、ビオトープに生息するチョウトンボ(黒)やショウジョウトンボ(赤)を観察するなど、楽しみながら生物多様性保全活動を知る機会になりました。
また、ビオトープで羽化したヨツボシトンボが一定期間滞在、定着するための植栽構築を目的として、2022年6月にポットに移植したビオトープ周辺の実生(みしょう)植物を引き続き育苗しており、1~2年後を目途にビオトープの周りに植え替えを行う計画です。

  • 「湯屋のヘーベルビオトープ」での観察会の様子
  • ポットに移植して育苗中の実生植物

鈴鹿地区の取り組み

鈴鹿製造所内には製造所を南北に横切る19号河川が流れており、ここには製造ラインで利用した冷却水等が水質管理しながら放流されています。この19号河川は川幅が狭いものの、古くからある石畳の護岸を大切に守りながら、水生植物や生物が生息しやすい環境を保持しています。この石畳の周辺や隙間にはキクモ等の植物が生え、カニが生息し、河川水にはオイカワをはじめさまざまな小魚が泳いでおり、水辺にはトンボや蝶もやってきます。人が少ない早朝には鴨やゴイサギ、シラサギなどの鳥類が飛来し羽を休める姿も見られます。今年は親鴨の後ろを10匹以上の子鴨が連なって泳ぐ姿が見られ、ホッコリした気持ちにさせてくれました。古くから住んでいるスッポンも増えて5匹となっており、時折手足を大きく動かして泳ぐ姿が見られます。
河川のそばを歩くときには、どのような生物に出会えるのか楽しみです。多様な生きものを見つけるたびに、多くの水生生物等が生息しているこの19号河川の水辺環境を維持することが大切と実感します。石畳の護岸を着実に保全していくとともに、放流水の水質管理を継続して確実に行い、これらの水生生物が安心して住めるよう環境保全に取り組んでいきます。

  • 19号河川のキクモの側を泳ぐ鴨たち
  • 19号河川の岸辺でくつろぐ親鴨と子鴨たち
  • 19号河川を泳ぐスッポン

延岡・日向地区の取り組み

延岡支社では、2007年から、宮崎県が推進する「企業の森づくり」制度を活用し、宮崎県日之影町で24.52ha、高千穂町で20ha、五ヶ瀬町で1ha、延岡市北方町で3haの計48.52ha余りの山林を、スギ・ヒノキなどの人工林から、広葉樹を主体とした自然林に戻す植樹活動を進めてきました。

過去には400名規模で開催することもありました植樹活動は、コロナ禍の影響もあり一時期開催を見送っていましたが、2022年度より参加人数を約150名に縮小し、再開しております。2023年度は約120名の参加で、1haの土地に1,500本の植樹を行いました。

  • 植樹の様子
  • 植樹後の記念撮影

旭化成ホームズの取り組みは以下を参照ください。