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半導体事業でクルマの未来を切り拓く
2024年11月21日
旭化成は1980年代から半導体事業(電子部品事業)を本格化。化合物半導体技術やアナログ/デジタル混載技術を特長とする、さまざまなセンシングデバイスや高度な IC (集積回路)製品を手掛け、時代に求められる社会イノベーションに貢献してきた。本記事では、事業会社である旭化成エレクトロニクスが現在注力する、3つの自動車向けソリューションを紹介する。
EV普及へ、世界がうなる次世代型の「電流センサー」
EV(電気自動車)の普及にはさまざまな課題があると言われるが、その一つが、充電である。充電ステーションのようなインフラとしての整備や標準化のほか、充電時の電力ロスの削減、充電時間の短縮、1回の充電での走行距離の延長、充電器の小型化などといった各種課題に、政府や自動車メーカーが取り組んでいる。
旭化成では、電力ロスを抑制しながら高速充電を実現させ、小型化にも貢献するEV向けの電流センサーを手掛けている。世界各国の自動車メーカーが充電システムや関連製品を内製化する動きがある中で、当社はその開発段階から技術サポートとしてソリューションを提供することで、充電に適した次世代型電流センサーの開発を加速させている。
技術営業の京崎さんは、入社4年目で欧米の大手自動車メーカーを担当。自動車ビジネスの最前線に触れながら、顧客である自動車メーカーの充電システムの開発を支援すべく、日々商談を積み重ねている。
「当社の電流センサーは世界の競合他社と比較して応答速度の優位性が高く、群を抜いていると私は思っています。この素晴らしい性能でしか実現できないソリューションを開発段階から提案することで、市場での優位性を高めていけると思っています」。現在、充電用途で当社の電流センサーの採用が進む背景には、高い技術力が背景にあると京崎さんは話す。
ニッチな領域で磨き続けた、化合物半導体の技術
EVや充電スタンドに採用される当社の電流センサーは、超低発熱・高分解能・高速応答・高精度といった性能の高さを売りとする。それら性能の肝となっているのが、電流センサーの重要な構成要素である「化合物半導体のホール素子」だ。
一般的に半導体は単一元素(シリコン)で作られる。2種類以上の元素を化合して作られた半導体は「化合物半導体」と呼ばれ、シリコンでは達成できない特異な性質を有することができるが、生産工程で欠陥が発生しやすく、量産性に乏しいとされている。しかし、旭化成は40年に亘りこの生産技術を磨き続け、安定した量産体制を整備(構築)している。こうして作られた「化合物半導体のホール素子」は、通常のシリコン半導体のホール素子の、約30倍という磁場検出感度を実現している。またセンサーの形にするパッケージの技術や、回路設計技術などとの繊細な組み合わせによって、発熱を抑えながら、ノイズへの耐性も持ち合わせ、高速で精度高く応答するという各種性能につなげている。
日本の産業界を盛り上げたい
EV普及に向けたハードルは多くレベルも高い。しかしだからこそ、挑戦する意義があると京崎さんは考える。
「私は子供の頃にアメリカに住んでいたんですが、向こうで生活する中で、日本人の真摯な国民性や、日本企業の産業技術の素晴らしさを実感してきました。大きな話になりますが、いま日本の経済全体が少し元気がない状況かと思います。そんな中でも、日本の誇れる技術力を生かして地道にEV普及に貢献することが、日本の産業全体が再び盛り上がる一つのきっかけになるんじゃないか、そう信じて日々邁進しています。」京崎さんは熱き胸の内を語る。
“いのち”を守る「ミリ波レーダー」
湯本さんは10年以上電子回路の設計に携わり続け、現在は高い周波数の電波を使って対象物との距離、速度、角度を測定する「ミリ波レーダー」の設計リーダーを務めている。旭化成のミリ波レーダーは、広帯域・高精度なミリ波信号生成において特許を取得しており、高速A/D(アナログ/デジタル)コンバータや多チャンネル構成の技術によって、高い検出精度を実現している点が特長だ。そして、このミリ波レーダーICとソフトウェアを組み合わせることで、非接触聴診器や、屋内での高齢者や乳幼児の見守りといったソリューションに展開している。
世界で実装が進む、幼児置き去り検知システム
炎天下の車内に置き去りにされた乳幼児が、熱中症により命を落とす痛ましい事故が後を立たない。この実態を受け、ヨーロッパでは2023年から自動車の安全評価「ユーロNCAP」にCPD(Child Presence Detection:幼児置き去り検知システム)が追加された。アメリカでもすべての新型乗用車に、エンジン停止時に後部座席の確認を警告するシステムの搭載を求める法案が可決。日本でも送迎バスなどへの安全装置の装備が義務化された。幼児の置き去りを検知するソリューションの実質義務化が世界的に進んでいる。
そんな中、旭化成はミリ波レーダーによるCPDソリューションを開発し、世界最大級のデジタル技術見本市「CES 2024」で披露した。当社が強みとする広帯域で高精度なミリ波設計技術に加え、共同で開発を行ったカナダのPontosense社の先進的なアルゴリズムにより、車内に置き去りにされた子どもを数秒で検出可能なソリューションだ。
新たな技術は共創から生まれる
「新しい技術は様々な技術の組み合わせで生まれると考えています。」と湯本さんは語る。「他社との協業に加え、グループ内の異分野とも積極的に力を合わせていきたいと思っているんです。現在開発している置き去り検知や見守りソリューションは、人の命と健康に貢献する事業です。旭化成グループ内には住宅領域やヘルスケア領域など、『世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する』という同じミッションを目指す事業やスペシャリストがたくさんいます。それぞれの豊富な知見や高い技術を組み合わせれば、当社グループにしか生み出せない価値を創出できるはずです。」湯本さんは想像を超える価値創出に胸を躍らせる。
“音”空間のスペシャリストが届ける、「オーディオ&ボイスソリューション」
自動車業界は、CASE※という概念によって「100年に一度」の大変革期を迎えている。EV化によって車体重量の軽量化が求められている中で、車室内のスピーカーやマイクの数が減る。走行中の騒音もガソリン車とは異なるため、音質環境は大きく変わる。そのような環境変化を受け、車内での音楽鑑賞やハンズフリー通話といった、快適で安全な音空間を実現するニーズは、年々高まっている。
本来自動車の中は音響に適した環境とは言えない。走行中の風切り音もあれば、タイヤの摩擦音、車内でのエコーなどが発生してしまうからだ。旭化成はこういった車室内環境で上質な音響体験を提供するために、車載向けDSP (デジタルシグナルプロセッサ)と音声処理ソフトを組み合わせたソリューションを提供してきた。車載向けDSPはおよそ35年、ハンズフリー用途では20年以上の歴史がある。
生の声に応え続ける
技術営業の小國さんは、社内の開発、製造、品質保証の各チームと連携を取りながら、最終製品を提供している自動車メーカーと向き合う。そして自動車メーカーに部品を供給する各種サプライヤーの市場調査やヒヤリングなどにも力を入れる。最適な音空間を提供するためには、顧客に徹底的に寄り添い続け、車種ごとの異なる環境やニーズに合わせたカスタマイズを行うことが重要だからだ。
「やっぱり大切なのは、お客さまの生の声なんです。」小國さんは、会社とクライアントのラボを行き来しながら、顧客の声を直接聞き、それを開発メンバーにフィードバックしている。デジタル化される時代とはいえ、音は人が感じるものだから生の声を大切にする。各国、各メーカーによっても音質の好みやトレンドは異なり、コストとの兼ね合いも議論していかなければならない。当然、開発のスピードも求められる中で、齟齬なく顧客のニーズに応えるためには、直接対話を重ねることが一番なのである。音のチューニングを1週間付きっきりで行うことも珍しくない。「自動車開発とともに、最速でソリューションの完成度を高めていく、これが私たちの役割です。そして、ミッションを乗り越えていく中で、お客さまと信頼関係を構築していけるところに、大きなやりがいがあります」。顧客に寄り添いながら、スピーディに最適な音環境を提供する仕事には、苦労と醍醐味が同居していると小國さんは話す。
CASEによって新たな競合も参入する中で、健全な危機感を持ちながらも、小國さんは新たな挑戦に期待を膨らませる。「自動運転によって、車室内はより楽しんだり、リラックスする空間になっていくと思うんです。音楽を聴くのはもちろん、映画を観たり、スポーツ観戦を楽しみたいというニーズも高まると考えています。臨場感の溢れる大迫力の音で、車内の時間を最大限楽しんでもらえるように、私たちは音のスペシャリストとして貢献していきたいです。」
未来を切り拓くのは、卓越した技術だけではない。その背後にある、情熱と信念こそが真の成功への近道だ。会社の枠や事業の枠を超え、共に高め合いながら、半導体という事業を通じてこれからもクルマの未来のために挑戦は続く。
- ※CASEは、変革の時代を迎えている自動車産業の動向を象徴するキーワード「Connected」、「Autonomous」、「Shared & Services」、「Electric」の頭文字をとった造語
- ※肩書・記事内容は取材当時のものです。