旭化成陸上部、スポーツで地域と想いを一つに「ゴールデンゲームズ in のべおか」

2023年10月31日

年に一度、旭化成発祥の地である宮崎県延岡市は温かさと熱気に包まれる。市内、県内だけでなく全国から25,000人近い観客が集まる陸上競技大会「ゴールデンゲームズ in のべおか(GGN)」が開催されるからだ。旭化成陸上部による小さな記録会として始まったGGNは、地域の方々の盛り上がりと協力のもと、年々その規模を拡大。延岡市とも連携し、今では学生から世界で活躍するトップ選手まで集まるユニークな陸上競技大会として、延岡を代表するイベントの一つとなっている。旭化成にとって、また地域にとって、GGNとは何なのか—。2023年5月に行われた第34回大会の全貌とともに、大会に携わる人びとの想いに迫る。

小さな記録会が、やがて延岡の風物詩に

「そろそろ、ゴールデンゲームズだね。」
延岡の駅や町にGGNの旗やポスターが張り出されると、そんな声があちこちから聞こえてくる。陸上競技の大会がまるで地元のお祭りのように、延岡の人たちに浸透している。

  • 延岡駅に掲出されたGGNの横断幕

そんな延岡の風物詩の発起人は、当社陸上部で日本の陸上史にその名を刻んだ宗兄弟(兄・宗茂さん、弟・宗猛さん)。きっかけは、1990年に当社の陸上競技場を改修したことだった。こけら落としとして西日本地区のトップ選手を招いて記録会を開催したところ、参加選手の半分以上が自己記録を更新。各チームの監督や選手から、この記録会の継続を求める声が上がり、観客であった延岡の人たちからも「トップランナーの走りをまた見たい」と熱望する声が寄せられた。現在、当社陸上部の総監督を務める宗猛さんは、第1回大会をこう振り返る。
「観客との距離が近い、ヨーロッパの陸上競技大会のような雰囲気づくりを目指したんです。すると、記録会当日に競技場のトラックの周りにたくさんの地域の方々が集まってくださり、熱のこもった応援をしてくれました。その盛り上がりが、選手たちの記録更新につながったのだと思います。」

多くの声に後押しされて翌年以降もこの記録会は続き、第4回大会から現在の大会名である「ゴールデンゲームズ in のべおか」となった。また、よりヨーロッパのスタイルに近づけるため、ブリキの看板を観客が叩いて応援する方式を採用。延岡市の企業や商店に看板協賛を募って約100枚の看板がトラックの外周を埋め尽くすようになり、観客は5,000人を超えた。第8回大会からは、九州初の青いトラックと全天候型競技場へ改修された延岡市営西階(にししな)陸上競技場で開催し、観客は25,000人規模にまで増えた。そして、2023年5月に行われた第34回大会は、コロナ禍の困難を乗り越え、4年ぶりに規制なしで開催された。
「観客が喜んで、選手が頑張り、記録が出る。それでまた観客が盛り上がる。こうした良いサイクルが生み出されているからこそ、GGNが全国の陸上ファンや延岡の地域に愛される大会に育ったのだと思います。」

  • 当社陸上部総監督 宗猛さん
  • トラックの真横でブリキ看板を叩き応援する観客

企業と地域が力を合わせて運営

大会当日には朝早くから多くのスタッフが会場作りや大会の準備に取り掛かかる。GGNは、主催である宮崎陸上競技協会や大会実行委員会とともに、100名を超える学生ボランティアが会場誘導を行い、また当社陸上部の選手自ら受付を担当。地域と一体になって運営が行われている。

着々と会場の準備が進み、トラックの周りが観客で埋めつくされていくと、色とりどりの棒が配布された。これがトラックの周りのブリキの看板を叩くための「叩き棒」だ。当社の繊維工場で回収した紙管(糸を巻くための芯となる管)を再利用した物で、観客はこの棒でブリキの看板を叩いて選手たちを鼓舞する。

  • 当社陸上部選手が受付担当 相澤晃選手(左)と藤木宏太選手(右)
  • 選手を鼓舞するカラフルな「叩き棒」

大会運営全体を統括するのが、GGNのもう一人の立役者、当社陸上部マネージャーの楠さんだ。地域と一体となり、大会の成功に誰よりも情熱を注いでいる。

「私はもともと陸上競技との接点はなく、人事異動でたまたま陸上部のマネージャーになったのが今から40年近く前です。第1回大会から運営に携わっています。最初の頃はゼッケンや看板も手作りだったのですが、社内の仲間が遅くまで準備をする私の姿を見て、いろいろと手伝ってくれるようになりました。それから社内だけでなく、地域の皆さんにもご協力いただけるようになっていき、今のGGNがあります。大会を重ねるごとに、旭化成だけでなく、延岡の皆さんの思いやりと優しさを感じています。」

  • 第1回大会から運営をリードしてきた当社陸上部マネージャーの楠さん

子どもたちにとっても特別な一日

14時を回ると、大会がいよいよスタート。GGNは昼夜行われる大会で、前半の部では陸上競技に打ち込む小学生や中学生がトラックを走る。練習や他の大会では体験することのないほど多くの観客から見守られ、応援される中で、子どもたちは最後の最後まで力いっぱい走り抜く。GGNはトップ選手が出場する大会でありながら、子どもたちも参加できる数少ない陸上競技大会。トラック横からの大きな声援と看板を叩く音に励まされ、子どもたちは良い記録を生みだし、また一つ成長する。

延岡の陸上少年少女の育成に携わる延岡市陸上競技協会の河野さん、甲斐さんも、GGNは子どもたちの成長や貴重な経験の場になっていると話す。
「子どもたちにとってGGNは、間近で多くの声援を受けながら自分の力を出し切り、選手としても人間としても成長できる機会です。また、GGNは企業、行政、市民、陸上競技協会が一つになって盛り上げる延岡を代表するイベントとして、地域のつながりを深める機会になっているので、私たちも出来る限りの協力をして今後も大会を盛り上げていきたいと思っています。」

  • 自己記録と大会記録を更新、親子にとっても思い出に残る大会に
  • 延岡市陸上競技協会もGGNを一緒に盛り上げる

観客の応援が選手の背中を押す

大会の中盤から終盤にかけては、高校生や大学生、そして実業団などで活躍するトップ選手が登場する。ここからGGNの名物の一つ、当社陸上部顧問である宗茂さんによるマイクパフォーマンスが始まり、会場のボルテージがさらに上がる。「いいぞ、いいぞ!」「しっかり着いてけ!」「あきらめるな!」。気持ちのこもった激励は、選手の背中を押すだけでなく、会場全体を大いに盛り上げていく。

そして、ドンドンドン!と観客がブリキの看板を叩く音と声援もより一層大きくなっていく。声援に押されてか、どの選手も最後の100mは全力でラストスパートをかけ、力を出し切っていく。GGNでは、そんな観客の応援が選手の背中を押す瞬間を見ることができる。そして、日本記録や大会記録でなく、自己記録の達成であっても、会場からは大きな拍手が送られる。自分自身の限界に挑戦し、それを乗り越えることへの敬意と祝福する気持ちが、30年以上という長い歴史の中で自然と育まれている。

  • 当社陸上部顧問の宗茂さん、ヘッドセットマイクで選手に檄を飛ばす

大会に出場する当社陸上部の選手にとっても、GGNは特別な大会だ。鎧坂哲哉選手はこのように話す。
「GGNは、自分の名前をたくさんの方々に呼んでいただきながら走ることができる、まさにホームレースです。そして、旭化成や延岡の皆さんの応援を改めて実感できる大会でもあります。今後もこの感謝の気持ちを胸に、応援してくださる皆さんの力になるような走りをしていきたいです。」

  • 当社陸上部の鎧坂哲哉選手

GGNを通じた旭化成の想いとは

当社は長きにわたり、世界で活躍する多くのトップアスリートを輩出し、スポーツを通じた地域貢献、そして次世代育成にも積極的に取り組んできた。GGNはその象徴となるイベントの一つとなっている。
GGNは陸上競技大会でありながら、当社、そして延岡の人たちにとっては年に一度の楽しみであり、お祭りだ。また、陸上競技に励む子どもたちにとっては大きな成長の場であり、良き思い出となる。地域とのつながりの中で、未来を育む対話の場にもなっているのだ。GGNは、これからも選手、そして地域に愛される大会であり続けたい—。
私たち旭化成はこれからもスポーツを通じて社会に貢献し、地域と子どもたちの未来を想い続けます。

  • 肩書・記事内容は取材当時のものです。 

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