トップCreating for TomorrowTomorrow’s Stories 衣料から医療へ、事業進化の舞台裏には旭化成のコア技術とイノベーション
衣料から医療へ、事業進化の舞台裏には旭化成のコア技術とイノベーション
2024年3月6日
農業が一大産業であった1920年代、化学肥料製造のために日本初のアンモニア合成に成功し、事業を始めた旭化成。化学工業を展開する礎を築き、繊維事業にも乗り出した。以来、100年を超える変革と挑戦の月日を歩み、現在は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」という3つの領域で事業を展開する。中でも、ヘルスケア領域への拡大は大きな飛躍となった。当社事業の根幹、変革の舞台裏には、常に創業から脈々と受け継がれたコア技術とイノベーションがある。こうした歴史を辿り、先人たちの挑戦や想いを受け継ぐ当社の人びと、そしてコア技術とイノベーションの未来にも迫る。
Contents
コア技術とイノベーションの起点、人びとの「食」「衣」を豊かに
1922年、日本国民の食を支える農業の生産性を高めるため、創業者・野口遵(のぐちしたがう)は宮崎県延岡市に工場を、さらに同市を流れる五ヶ瀬川上流に水力発電所を起工し、翌年には化学肥料に欠かせない合成アンモニアの製造に日本で初めて成功。延岡の豊かな水資源を活用しながら、当社の歴史は幕を開けた。
また、当時はまだ絹の着物を身に着けることも多かった時代。安価で良い衣料の普及が、日本人のくらしをより良くする。当社は1924年から再生セルロース繊維であるレーヨンの製造を開始し、繊維事業に乗り出した。人びとの「食」と「衣」を支える事業を—。これが当社の原点であり、今日に至る技術イノベーションの起点となっている。
その後、1931年に再生セルロース繊維「ベンベルグ®」(キュプラ)の製造を開始。1920~1950年代は、レーヨンや「ベンベルグ®」といった再生繊維を中心に繊維事業を拡大した。1957年には合成繊維「カシミロン」(アクリル)の製造も始め、その知見と技術力をより一層高めていった。
衣料から医療へ、コア技術の深耕でヘルスケア領域に挑む
1970年代前半にかけては、衣料業界において合成繊維である「カシミロン」の需要が高まっていった。その一方で苦戦を強いられていたのが、「ベンベルグ®」だった。合成繊維工場が新設されるのを目の当たりにしながら、正念場を迎えていたベンベルグの研究チームは衣料以外での新たな用途展開を模索した。スタッフはたったの二人。「今、世の中で求められているものは何か」「ベンベルグの技術を応用して貢献できないか」。こうして導き出した答えが、当時医療業界で期待が高まっていた人工腎臓の開発だった。人工腎臓は腎不全患者の血液透析治療に欠かせない医療機器で、1975年に本格生産を開始。当社は創業当時から積み重ねた繊維事業の技術力で、衣料から医療という最も挑戦的な用途展開に成功し、ヘルスケア領域に事業を拡大していった。
人工腎臓の開発によって、新たに「中空糸膜」と呼ばれるコア技術を確立した。1989年、この技術を応用して生み出された新製品が、ウイルス除去フィルター「プラノバ™」だ。「プラノバ™」は血液由来製剤やバイオ医薬品の製造・開発工程に用いられる、中空糸膜を束ねて作られたフィルター製品。中空糸膜はストローのように中が空洞になった糸で、その表面にはたくさんの微細な孔が空いている。その空洞内に製剤を流し込めば、微細な孔でウイルスなどの異物を分離し取り除くことができる。なお、この中空糸膜も含めた孔で分離する膜の技術は「多孔膜技術」と総称し、創業から紡がれる当社のコア技術の一つとして、現在はリチウムイオン電池(LIB)用セパレータやグリーン水素製造用大型アルカリ水電解システムなど環境領域にも生かされている。
「衣料から医療へ」。アンモニア合成に始まり、繊維の技術がヘルスケア領域に展開。コア技術の深耕とイノベーションの歴史が、世界の人びとの“いのち“と”くらし“に貢献する、今日の当社の姿にもつながっている。
ウイルス除去フィルター「プラノバ™」、コロナ禍での貢献
現在、旭化成メディカルが事業を手掛ける「プラノバ™」。記憶に新しいコロナ禍では、この「プラノバ™」に世界中の製薬会社から大きな期待が寄せられた。「コロナ治療薬を1日でも早く開発してほしい」という世界中の願いと比例するように、その製造・開発工程で用いられる「プラノバ™」の需要も急激に増加した。当時、コロナ禍での「プラノバ™」増産に熱い想いで挑んだ現場担当者は、奮闘の日々をこう振り返る。
「当社には確かな技術力と品質の高い製品、お客さまと誠実に向き合い続けてきた歴史があります。危機的な状況の中で、その信頼と期待に応えることができたことを誇りに思います。」
大手製薬会社による連合(コンソーシアム)からは、感謝状も寄せられた。上市されて30年以上の「プラノバ™」だが、こうして人類の世界的危機の裏側でも社会の期待に応え、当社のコア技術とイノベーションが独自の貢献を果たしていた。
技術の広がりと進化を支え続けたもの
衣料用の繊維技術が医療機器という全く異なる領域の製品開発につながった背景には、創業から受け継ぐ先人たちの強い想いがあったと、当社の研究・開発をリードしてきた竹中さんは話す。
「当社には先人たちが築いてきた数多くのコア技術がありますが、その創出や研鑽には共通しているものがあります。それは『世界の人びとのために、社会をより良くしたい』という強い想いです。まだこの世にないものを生み出す研究開発には、多くの困難や高いハードルが立ちはだかります。成果が出るまでには長い時間を要することもあり、本当にできるのかという不安とも常に背中合わせです。それらと向き合い続けるためには、社会貢献に対する強い想いが必要不可欠です。当社の研究開発にはそういった風土が根付いており、時代ごとに社会ニーズに応え続けてきました。その結果、現在の多様なコア技術と事業展開につながっています。」
目の前の社会課題を技術で解決したい。そんな想いが次なる技術・製品を生み出し続け、振り返ると100年前には想像もつかなかった技術の広がりと進化を見せていた。
今こそ化学の技術、旭化成の出番だ
最後に未来に向けた当社のコア技術とイノベーションについて、竹中さんはこう話す。
「私は今こそ物質を最小エネルギーで別の物質に変換できる化学の技術、そして旭化成の出番だと思っています。そして、これからも私たちが社会に貢献し続けるためにイノベーションは不可欠です。当社では従業員がスムーズに対話できる環境を整え、それぞれの人財や技術の違いから新たなアイデアを生み出せるシームレスな研究開発を行っています。こうしてイノベーションを生み出し続け、資源循環型社会の実現における大きな役割を担っていきたいと考えています。ただし、自社の力だけでは限界もあります。世界中の最先端技術にアンテナを張り、国内外パートナーとの連携強化も重要です。より良い未来に向けて、さらなるコア技術深耕と変革を進めていきます。」
当社はこれからも、化学をベースとした技術力で世界を変えるイノベーションを続けていく。
- ※肩書・記事内容は取材当時のものです。