吉野 彰
リチウムイオン電池の開発者が語る開発の経緯と将来展望
いまや生活に欠かせないリチウムイオン電池。発明したのは名誉フェローの吉野彰です。インタビューをご紹介します。
リチウムイオン電池(LIB)開発成功のきっかけを教えてください。
1980年代はモバイル機器の開発が活発になった時期ですが、それと並行して、機器を小型・軽量化するための電源として、エネルギー密度が高く、かつ再充電可能な二次電池が求められていたのです。ただ、そうは言っても、具体的にどんな電池が求められているのかということに気付いたのは、“流行(はやり)言葉”がきっかけでした。当時、『ポータブル』という言葉が流行っていました。そうしているうちに『コードレス』や『ワイヤレス』という言葉が盛んに使われるようになったんですね。時代の流れのなかで、世間が何を求めているのかという匂いを感じ取る、一種の嗅覚のようなものだと思います。
新製品を研究、開発する端緒とは?
常にお客さまが、そして世の中がいったい何を求めているのかということを、日常生活から探り出すことと、それを達成する手段としての技術をどうやって繋げるかということです。
でもその技術への繋がりは、何か新しい発見はないかと真剣に考えているときより、ヒマでボヤッといろいろなことを考えているときに、自然と浮かんでくるんですよ。
発明のポイントと、科学、現代社会の発展にどのような影響を及ぼしたかを教えてください。
これまでの二次電池は電解水(イオンを含んだ溶液)の溶媒が水でした。水は1.5V以上の電圧がかかると水素と酸素に電気分解してしまいます。従って、1.5V以上の起電力を得ることが不可能でした。水の代わりに有機溶媒を用い、しかも負極にカーボンを用いることにより4V以上の起電力を生み出しました。
また、正極にコバルト酸リチウム(リチウムイオン含有金属酸化物)を使用したことで、リチウムイオン電池の原型を世界で初めて考案しました。
小型・軽量な二次電池を実用化したことで、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ・ビデオ、携帯用音楽プレーヤーをはじめとした幅広い電気機器の小型化に大きく寄与しました。
今後リチウムイオン電池(LIB)は、電気自動車等の新規市場での更なる広がりも期待されています。
将来、研究分野がどう変わっていくと思いますか?
私たちは現在IT社会にいます。このIT革命は1995年からスタートしています。Windows95が発売された年です。1995年の人びとが現在の私たちのIT社会をみると、SF映画のようにみえるでしょう。
同じような大変革がこれから起こり、10年、20年、50年後には、現在の私たちにはSF映画のように見える社会に変わっていると思います。1995年のIT変革は情報分野で起こりました。私は、次の大きな変革はエネルギー分野で起こると思っています。
次の大きな変革への準備は現在も着々と進んでいます。社会の流れを着実につかんで果敢に挑戦し、リーダーシップを発揮していける人が、今も昔も変わらず活躍していると思います。
最後に、今後の抱負と未来の研究者の方へのメッセージをお願いします。
今の若い技術者の皆さんを見ていると、たくさんの情報が溢れているため、あらゆる分野で解明されていないことがたくさんあるということに気が付いていないように感じます。実際は、研究・開発のチャンスはたくさんあります。確かな目標と、たゆまぬ努力があれば未来に可能性が生まれます。
私自身、これからも、第一線の研究者と同じ目線で、新しい研究分野(目標)に挑戦していきたいと思っています。
リチウムイオン電池(LIB)について
LIBは正極をリチウムイオン含有金属酸化物、負極に炭素材料を用い、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う電池(二次電池)です。現在では、スマートフォン、ノートパソコン、自動車、産業機械、航空機などあらゆる製品で使用されています。
LIBの特長
- 1.非水系電解液に特定の正極と負極を組み合わせることにより、高い起電力と容量を持ちます。
- 2.反応性が高い金属リチウムを使用していないので、安全性が高い
- 3.充電により正極からリチウムイオンが放出され、負極の炭素の層間に吸蔵されます。放電ではこの逆の現象が起こります。イオンが行き来するだけの化学反応を行わない、シンプルな原理のため、放電中に一時的に電圧降下を起こす現象(メモリー効果)もなく、充放電の電池の寿命が長くなります。
電池の種類とLIBの位置づけ
水素系電解液電池(約1.5V/セル以下) | 非水素系電解液電池(約4V/セル・高容量) | |
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一次電池 | マンガン乾電池 アルカリ乾電池 |
リチウム電池 |
二次電池 (充電可能) |
鉛電池 ニカド電池 ニッケル水素電池 |
リチウムイオン電池(LTB) |