植竹 伸子
次世代事業の開拓者が踏み出す、カーボンニュートラルの世界
脱炭素社会の実現に向けて、旭化成は新たな事業創出に取り組んでいます。2021年4月に発足した「グリーンソリューションプロジェクト」の副プロジェクト長を任され、電子材料の事業責任者からカーボンニュートラルの世界へ。積み重ねたキャリアを生かし、未知の領域に挑む植竹伸子に話を聞きました。
- ※肩書・記事内容は2022年1月時点のものです。
植竹 伸子NOBUKO UETAKE
旭化成株式会社 上席理事 グリーンソリューションプロジェクト 副プロジェクト長
1987年京都大学法学部卒業、旭化成工業株式会社(現・旭化成)入社。大阪の繊維企画管理部企画担当に。1990年東京へ異動。2002年半導体材料マーケティング部で営業職。2012年旭化成イーマテリアルズ企画管理部戦略企画グループ長、2019年電子・機能製品事業部長を経て、2021年から現職。
脱炭素社会へのアプローチ、世界最大級のアルカリ水電解装置
まさに青天の霹靂でした。カーボンニュートラルについての知識があるわけでもない私が、チームリーダーに指名されたのですから。全く畑違いの未知の領域ですが、脱炭素社会の実現に向けて共創型の新規事業を立ち上げるという非常にやりがいのある仕事だと思い、若いメンバーと一緒に日々取り組んでいます。
プロジェクトのメインは水素製造ですが、さらに発電所や工場などから出る二酸化炭素の分離・回収、脱石化(脱石油化学)を目指すグリーンケミカルなど3つの事業化を計画しています。まずは二酸化炭素を排出せずにつくる「グリーン水素」を、低コストで大量に供給するための研究開発を進めていきます。これは太陽光などの再生可能エネルギーにより、旭化成が開発したアルカリ水電解装置を活用してグリーン水素をつくるという試みです。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業として、福島県浪江町に世界最大級のアルカリ水電解装置を設置し、水素製造の実証実験を行っています。
2025年の事業化を目指し、主力事業に育てる
旭化成では2025年に水素事業化、2030年には主力事業へと育成することを目指しています。アルカリ水電解装置については耐久性など課題もありますが、今後は大型化などの技術開発を進めていきます。次にグリーン水素を活用したアンモニアなどの基礎化学品の合成の実証を、日揮ホールディングスとも一緒になって進めます。旭化成が水素を提供し、アンモニアなどのグリーンケミカルをつくるのです。アンモニア自体も今注目のクリーンなエネルギー源です。
さらに、水素事業ではさまざまなパートナーと手を組み、グローバルなサプライチェーンでの展開も想定しています。海外にあるコストの安い再生可能エネルギーの大規模拠点で水素をつくり、液体水素やMCH(メチルシクロヘキサン)、あるいはアンモニアをキャリアとして、日本などアジアに運んでくることも考えています。今のところ水素供給インフラの整備では欧州が先行していますが、私たちも海外勢に後れを取らないよう事業開発や市場開拓を進める考えです。
積み重ねたキャリア、チーム一丸で乗り越えた経験
私は入社以来15年間、企画などスタッフ部門が長かったのですが、最前線の営業や工場などの現場業務に挑戦してみたいという思いがありました。当時の上司にも掛け合って、半導体材料のマーケティング部署に異動することができ、電子材料の事業部門で働くようになりました。
その後、電子材料の事業責任者となり、大きな商談のチャンスが巡ってきました。ただ、顧客である半導体メーカーの要求水準が非常に厳しい。品質関係などの要求項目が通常の数倍もありました。要求に応えるためには、人員も2倍は必要になる。品質担当の役員からも「守れない約束はするな」と釘を刺されました。リスクを冒して責任が取れるのか自問自答しましたが、絶対に諦めたくない、乗り越えたいと決心しました。チームメンバーを前に「思い切って一歩踏み出し、クリアしよう」と話すと、みんなが一丸となってくれました。過酷な交渉をやり抜いて最終的に採用となり、優秀サプライヤー賞までいただきました。受賞もそうですが、みんながワンチームとして強く結束し困難を乗り越えてくれたこと、そして個々のメンバーがそれぞれ大きく成長してくれたことは嬉しかったですね。
常に前を向いて、臆せずにチャレンジを
旭化成には異分子を受け入れる土壌があります。今思えば私自身も異分子でしたし、いろんな個性の持ち主が楽しく仕事できる会社です。ただ、女性活用などダイバーシティ(多様性)に取り組む姿勢はもう一息かなと感じています。私は今、ダイバーシティ推進の活動にも参加しており、みんなが輝く会社に変えていきたいと考えています。
また、常に「なぜ」を問い、考え抜いて仕事に当たることが大事だと思っています。私は色々な職場を経験しました。自分に経験が無い業務のマネジメントを任され、自分に何ができるのかと落ち込んだことも何度もあります。不慣れな職場に行くこともありますが、自分に合わないと腐ったりする必要はありません。常に前を向いて、何ができるかを考えて行動すれば、後でプラスになると思います。次世代を担う若い人たちには、臆せずにチャレンジしてほしいと思います。