トップメッセージ
旭化成グループは、1922年の創業以来、100年以上にわたり、さまざまな社会課題に対峙し続けてきました。時代ごとに異なる課題に向き合いながら、世の中のニーズに応えるさまざまな製品やサービスを創出し、事業を進化させてきた歴史があります。
こうした中で、私が大切にしているのが「不易流行」の精神です。すなわち、変わらない価値と時代に応じた変化の調和です。当社グループが長年にわたり培ってきた価値観や理念は、まさにこの精神に通じるものだと感じています。絶対に変えないことは、社会がどう変わろうと、事業の形がどう移ろうと、「世界の人びとの“いのち” と“くらし”に貢献する」というグループミッションを貫き続けることです。このグループミッションは2011年に現在の形に整理したものですが、創業以来、世の中の人びとの役に立ちたいという想いが変わることなく受け継がれてきたことがその礎にあります。一方、変化の激しい時代において、過去の伝統に固執するのではなく、自ら変わり続け、新たな伝統を創り出す、この挑戦こそが、当社グループの未来を切り開く力になると信じています。
2つのサステナビリティの好循環に向けた歩みを続ける
2025年4月、『中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~』を発表しました。その実現に向けて、前中期経営計画で掲げた「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」という2つのサステナビリティ(持続可能性)の好循環を引き続き経営の前提条件に据えています。社会課題の解決に貢献することで企業価値を高め、その成果をさらに社会に還元していく。この循環を継続的に回していくことが、私たちの成長戦略であり、社会との約束でもあります。
世界の最重要課題の一つが、地球温暖化をはじめとする気候変動への対応です。気候変動は年々、深刻さを増しています。この課題に対し、当社グループは、「自社の事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量の削減」と、「社会のGHG排出量削減への貢献」の2方向から取り組みを進めています。
当社グループは事業の特性上、排出するGHGが決して少なくありません。だからこそ、2050年のカーボンニュートラル実現という目標に向けて、私たちは真摯に取り組んでいます。使用エネルギーの削減、エネルギーの脱炭素化、生産プロセスの革新、事業ポートフォリオの見直しなど、多面的なアプローチを着実に進めています。新中計では、従来の目標に加え2035年に自社のGHG排出量を2013年度比で40%以上削減するという新たな中間目標を掲げました。
「社会のGHG排出量削減への貢献」として、当社は環境貢献製品を展開しています。市場の標準的な製品に比べて、製品のライフサイクル全体でGHGをはじめとする環境負荷を低減する製品・サービスの展開です。環境貢献製品によるGHG削減貢献量についても、2035年に2020年度比で2.5倍以上にするという新たな目標を設定しました。
また、2024年度より次期環境貢献候補製品という新たな枠組みを設けました。研究開発の段階から、将来の環境貢献製品となり得る技術や製品のアイデアについて、GHG削減貢献量等を評価・可視化する取り組みであり、当社グループが環境価値創出を強化していくための新たな枠組みの一つです。
事業を通じたGXの推進に向けて
サステナビリティの取り組みにおいて中核にあるのが、事業を通じたグリーントランスフォーメーション(GX)の推進です。GXは、脱炭素社会の実現に向けて、事業の成長と社会課題の解決を両立するための戦略的な取り組みです。
当社グループでは、GX推進に向けた新たな技術開発や事業拡大の取り組みを進めています。水素製造技術においては、アルカリ水電解を活用した設備、膜を含めたシステムの開発を行っています。これは、再生可能エネルギーを活用したグリーン水素の製造を可能にするものであり、経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業にも採択され、早期の事業化に向けて準備を進めています。
CO₂ケミストリーの分野では、バイオエタノール由来の化学品や、CO₂を原料とする新たな素材の開発に取り組んでいます。これにより、化石資源への依存を減らし、資源循環型の社会の構築に貢献することができます。
リチウムイオン電池用セパレータ事業については、電池の収率向上や電池の長寿命化に繋がる製品の開発、製品の環境対応の推進など、サステナビリティの観点からも意義のある取り組みを行っています。北米で実行中の大規模投資は、環境変化を見据えながらも中長期的な視点で進めていきます。また、技術力と顧客対応力を磨き続ける姿勢は変わりません。
人と地球の未来を想う
私たちは今、社会や産業の構造が大きく変化する時代の中にいます。気候変動、地政学的リスク、金利・為替・資源価格など、企業を取り巻く環境は複雑さを増し、先を見通すことが難しくなっています。
当社グループでは2050年に向けて目指す姿として「Care for People, Care for Earth(人と地球の未来を想う)」という旗印を掲げ、サステナビリティを追求しています。人のいのちとくらしに寄り添いながら、地球環境への責任を果たす。人と地球の未来をともに育み、大切にしていく姿勢は、私たちが守り続けてきたものであり、これからも変わることなく受け継いでいくものだと考えています。
当社グループは創業以来、さまざまな事業を立ち上げ、その中で培ってきた人財、知財、経営ノウハウ等といった無形資産の結集により生み出される多様性(Diversity)と、専業メーカーとは一線を画す事業アプローチで独自のポジションを構築し、高付加価値、高収益を実現する力(Specialty)の掛け合わせにより、成長を続けてきました。
これからも社会課題に真摯に向き合い、当社グループ全体が1つのチームとして力を結集するだけでなく、顧客や取引先、地域社会の皆さま等、さまざまなステークホルダーと協同し、持続的な企業価値の向上を目指すとともに、社会への価値提供を続けていきます。
代表取締役社長
工藤 幸四郎