荒川 圭史 | 開発者インタビュー | Creating for Tomorrow | 旭化成株式会社

住まいから発信する街づくりのコンセプト

「気持ちのいい家」「ロングライフ住宅」の実現を通して街を変えようとしている荒川圭史が考える、住まいづくりの鍵とは何か。設計を手掛けた、東京都世田谷区豪徳寺にある街かどへーベルハウスで聞きました。

荒川 圭史

荒川 圭史KEIJI ARAKAWA

旭化成ホームズ株式会社 上席設計士 一級建築士
1961年東京生まれ。85年東京理科大学建築学科卒業、87年同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了し、旭化成工業に入社。以来、東京の城南エリアで邸別の設計業務に携わる。2004年「SHIBUYA DESIGN OFFICE(現在のTOKYO DESIGN OFFICE)」を立ち上げる。「フレックスレジデンス成城モデル」によるグッドデザイン賞など受賞多数。

壊れにくい、燃えにくい、ヘーベルハウスはロングライフ住宅

ヘーベルハウスは60年も持つ住宅です。30年たったら防水と外装の吹付はやり直しが必要ですが、30年間はメンテナンスが不要で何もしなくてよいのです。それだけ耐久性は高いのですが、真のロングライフ住宅とは、耐久性が高いだけでは不十分で、快適さが持続することが必要です。快適な空間の実現には光の役割が大きく、簡単に言うと明るくて気持ちの良い場所を作ることが必要ですが、明るさと日当たりがよいことは必ずしも同じでないということがなかなか理解してもらえません。空がどれだけ見えているかが問題で、視環境工学ではそれで明るさが決まります。
極端な言い方をすれば空が見えない南面に窓をとるくらいなら、空に開いた北面に大きな窓をとった方が明るいのです。

災害に強いこともロングライフ住宅の大切な要件です。ヘーベルハウスはポテンシャルが高く、壊れにくくて燃えにくい。誰が設計してもヘーベルハウスであればこの安心感は担保されます。つまり設計事務所で一から設計をするのと違い、ヘーベルハウスを建てると決めた段階で設計は半分終わっているのです。私たちが現場でやっていることは災害時の話だけでなく、周囲の環境とどう融合させて「日常」をいかに快適な空間としてデザインするかということです。外から何を取り込んで何を取り込まないかを選択し、周囲とつかず離れずの良い関係を保ちながら居心地の良いスペースを作っていくことが住宅を設計するということだと思います。

荒川 圭史

追及しているのはカッコいいより気持ちいい住まい

住宅の設計は光や熱の入り方、風の抜け、断熱性や遮音性など普遍的な快適さをいかに高めていくかという面と、もう一つ住宅は施主の自己実現の場でもあるので、お客様固有の要望を聞き、この二つをバランスさせることが必要です。
つまり家はそのサイズやライフスタイルによってずいぶん違うものになってしまいます。小さいスペースの中で快適に住むためにいろいろと工夫が必要な家もあれば、1/3くらいは車のためのスペースになっているような大きな家もあるわけです。

お客様との会話の中では「かっこいい」という言葉は使わず、「気持ちいい」という表現に言い換えています。外観がかっこいいというのは主観的な物で、デザイナーのエゴと受け取られることが多いのですが、気持ちがいいということを否定するお客様はまずいないからです。もちろんかっこいいということも気持ちが良いことの一部であると考えているのですが。
また建物単体での形はあまり饒舌である必要はなく、塀や街路樹まで含めてそれぞれが街の構成要素の一つとして、街全体が気持ちよくきれいに見えることが本当にカッコいいことだと考えています。

荒川が設計した「ヘーベルハウス 東京一軒家−はなまねき−」外観(東京都世田谷区)2018年度グッドデザイン賞

屋上は住宅街の中の特等席。家庭菜園を楽しんだり、くつろぎのスペースにも

化学メーカーだからこそできる家づくり

私の父は小さな設計事務所の所長さんでしたがたまに自宅でも仕事をしていました。子供のころ父がパースを書くのを魔法でも見ているような感覚で見ていました。水彩絵の具で色を付けたパースが子供の目には写真にしか見えず、いつもすごいなと思ってみていました。自分も絵を描いたり工作は苦手ではなかったので自然と建築の世界に進みました。

学生時代は住宅メーカーの作る家はデコレーションケーキみたいで好きにはなれなかったのですが、ヘーベルハウスは普通のプレハブ住宅と違って新聞広告でも新しいモダンな建築というイメージを発信をしていました。旭化成はもともとが建築会社ではなく化学の会社なので、そこが面白いと感じていました。現在ではネオマフォームという高性能な断熱材を開発したりオリジナルの杭を自社生産したり他の会社ではできないこともたくさん増えてきました。サランラップでは住宅はできませんが、多種多様な部署があるということに限りない可能性を感じていましたし、今も感じています。

チューニングしながら進化し続けるデザインチーム「東京デザインオフィス(TDO)」

今後10年、20年で建築、住宅はどう変わるかとよく聞かれることがありますが、生身の人間が住む限り大きな変化はないと思っています。いろいろと便利になり世の中とのつながり方はどんどんバーチャルな方向に向かっていくとは思いますが、安全で快適という住宅の本質は普遍的な物でその延長上に進化はしていくと思います。また阪神大震災以来いろいろな災害が増えていると感じていますが、住宅メーカーも災害の起きた後の街をどんな方向にデザインしていくかという時代の要請にこたえていく必要はあると思っています。

現在私は「東京デザインオフィス(TDO)」にメインの活動の場を置いています。高い性能を持ったものを安く大量に提供していくという工業化住宅本来の役割とはある意味対極にあるのですが、その場所ならではのそのお客様のための住宅を丁寧に作り込むために立ち上げたデザインチームがTDOなのです。住宅や建築のデザインは工学系の仕事であると同時にストーリーをくみ上げていく小説のような側面もあります。チーム立ち上げ時には建築の歴史や意味など学生時代に読み切れなかった本などももう一度読みなおし、基礎から勉強しなおしました。実務を経験したことによるのか、昔理解できなかったこともすっと腑に落ちるというようなこともあり、デザインワークの幅も広がったと思います。

荒川 圭史

若い人にはいつでも「自分事」として設計の仕事に取り組んでほしい

設計することをプランを作るという言葉で表現をされることがあります。狭義のプランニングという作業は単に間取りを組み立てるパズルをしているだけで、構造計画も形のデザインも光の取り込み方も、周辺環境との関係も内部空間の感じ方も何も出来ておらず、本来の設計とかデザインとは程遠いことが多い気がします。それを何度繰り返しても本当の力はつきません。実際に社会に出てやることは大学の授業では習っていないことがほとんどだと思いますが社会に出た後もう一度振り返って勉強しなおすことで、昔習ったり読んだりしたことの本当の意味があるときすっと腑に落ちるということもよくある話です。
若いときにはいったい自分は何をやっているのかと悩むことも当然あると思います。しかし誰かに指示されたことをただ実行するのではなく、自分で考えて問題を解決していくことがとても大切だと考えています。どんな状況であっても「自分事」と捉えて設計を続けていってほしいと思います。