• プレスリリース

“冷却ストッキング”のメカニズムを流体/固体熱連成解析で世界で初めて解明

~「Nature」出版グループが刊行する「Scientific Reports」誌に論文を発表~

2020年4月13日
旭化成株式会社

旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小堀 秀毅、以下「当社」)は、着用することにより冷却効果を得られるストッキング(以下、“冷却ストッキング”)のメカニズムを、世界で初めて数値流体力学(Computational Fluid Dynamics:「CFD」)と表面形態の連成解析により定量的に解明しました。
本件解析によるシミュレーションは当社の生産技術本部 生産技術センター CAE技術部で、シミュレーション結果は同パフォーマンスプロダクツ事業本部 繊維技術開発総部 商品科学研究所で実験・検証され、その結果が「Nature」出版グループの学術誌「Scientific Reports」※1に掲載されましたので、お知らせします。

1. 論文概要

(1)課題認識
一般的にストッキングを履く理由の一つは、足を温めることです。通常の繊維材料は断熱性があり、体の熱が放散するのを防ぎます。一方、特殊構造を持ったニットストッキングを着用することで、一定の冷却効果を得られることも分かっていました。例えば“冷却ストッキング”の冷却能は、感覚として冷たいと感じる(接触冷感)既製品とは異なり、着用により体表面を物理的に冷やすという効果を発現します。その効果は、かねてよりサーマルマネキンを用いた放熱実験によって確認されていましたが、どのようにして体表面を物理的に冷却するのかというメカニズムについてはこれまで不明でした。
  • ニットストッキングの冷却効果(a,b)を示す歩行後の人間の足の温度の変化。
    ニットストッキングの冷却効果(a,b)を示す歩行後の人間の足の温度の変化。

    (a)素足の状態で、上が歩行前、下が歩行後。
    (b)冷却ストッキングを着用した状態で、上が歩行前、下が歩行後。
    (c)一般的なストッキングのニット構造イメージ(上)と冷却ストッキングのニット構造イメージ(下)。後者は縦方向に沿って糸の間隔が広くなるように編まれていることに注目。

(2)メカニズム解明へのアプローチ
この現象を解明するために、CFDで解析する流体/固体熱連成解析※2で冷却ストッキング表面に形成される突起構造(以下、「リブ」)を定量的に数値モデル化し、リブ表面(ストッキング表面の周期的なマイクロメートルスケールの突起物構造)の自然対流※3の分析を行いました。
(3)解析結果
冷却効果を発現するのは、マイクロメートルスケールのリブであることが明らかになりました。一般的に衣服を着用すると保温効果が発現しますが、このマイクロメートルスケールのリブは、リブからの放熱が自然対流によって促進され、冷却効果が発現されます。
  • リブのモデル図
    リブのモデル図

    P:ピッチ(リブ間の距離)
    e:リブ寸法(リブ=繊維:糸束の直径)

2. 社会的効果

このたびの解析手法による解明は、工業的、学術的にも有用な成果であり、このメカニズムの解明によって、繊維や生地の構造により繊維製品に冷却機能を付与できることが明らかになりました。今後、ますます温暖化が進む環境において、快適な生活を提供できる繊維製品の開発等の進展が期待されます。

当社は、今後も繊維のテクノロジーをはじめ、当社がこれまで培ってきた他の技術とCAE(Computer Aided Engineering)技術の融合による新しい付加価値の提供に努め、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”」に貢献してまいります。

  • ※1 「Scientific Reports」
    一次研究論文を掲載するオープンアクセスの電子ジャーナルで、自然科学と健康科学のあらゆる領域を対象としています。自然科学の分野では世界最大規模の論文が掲載されており、また、それらの論文は多くの文献等へ引用されています。著名な雑誌「Nature」をはじめ、「Nature」関連誌など90誌以上のジャーナルを管理しているNature.comの管理下にある雑誌で、毎月数百万人にも上る世界中の科学者がアクセスしています。「Scientific Reports」 には、技術的妥当性があり、各分野の専門家が関心を示すような原著研究論文が掲載され、一般公開されています。
  • ※2 流体/固体熱連成解析
    固体が流体の温度に影響を与え、その温度により流体が移動することで流速が生じ、その結果固体の温度も変化することを連続的に解析する手法。
  • ※3 自然対流
    外部からの働きかけなしに、熱源のみによって生じる流れ。

以上