気候変動

旭化成グループのカーボンニュートラルに向けた方針

旭化成グループは「世界の人びとの“いのち”と“くらし”への貢献」をグループミッションとして追求しています。その上で気候変動に関しては、自然環境や社会に大きな影響を与える世界の課題としてかねてより認識しており、創業以来培ってきた化学の力で、総力を挙げてこの問題に取り組んでいくことが、当社グループの使命と捉えています。
そこで当社グループは、2021年5月、以下の通りカーボンニュートラルに向けた方針を定めました。

旭化成グループの温室効果ガス(以下、GHG)排出量目標

2050年
カーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指す
2030年
GHG排出量の30%以上の削減を目指す(2013年度対比)
  • Scope1(自社によるGHGの直接排出)およびScope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の絶対量。

取り組み方針

当社グループでは、気候変動対策には、上記の自社事業活動に伴うGHG排出量の削減に加え、多様な技術と事業をもって、社会のGHG排出量の削減に貢献※1することが重要と考えています。マテリアリティにも「脱炭素社会への取り組み」を明記し、2021年4月には「グリーンソリューションプロジェクト」を発足。社会のカーボンニュートラルに向けた新たな事業創出の検討を行っています。
また、2022年4月には「カーボンニュートラル推進プロジェクト」※2を発足し、2030年GHG削減目標や2050年カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの集約、シナリオ分析についての共有・議論を行っています。
当社グループは、「Care for Earth」の視点から、①自社のGHG排出量の削減 ②事業/技術による社会のGHG排出量の削減への貢献の両面で気候変動問題にグループを挙げて取り組んでいきます。

  • カーボンニュートラルでサステナブルな社会への貢献 ①自社のGHG排出量の削減 2050年カーボンニュートラル 2030年30%以上削減(対2013年度) 取り組みの主なポイント エネルギー使用低減/エネルギー脱炭素化/製造プロセス革新/R&D/事業ポートフォリオ転換 ②社会のGHG排出量の削減への貢献 Environment&Energy Home&Living Mobility Life Material 主な視点 再生可能エネルギー、省エネルギー、蓄電、水素、EV、CO2分離回収・利用、軽量化、長寿命化、断熱、ZEH、CO2センサー、デジタル、循環型経済など
    カーボンニュートラルに向けた取り組みのポイント
  • 当社のGHG排出量削減 2050年カーボンニュートラル 2030年▲30%以上(対2013年度) ▲400万tへの挑戦 社会のGHG排出量削減への貢献 製品ライフサイクル全体での環境負荷 ▲500億tへの貢献(世界のGHG排出量)
    GHG排出量の削減に向けた2つの取り組み

温室効果ガス排出量削減の取り組み

GHG排出量削減の具体策と想定する効果

当社グループのGHG排出量目標である「2030年に、2013年度対比で30%以上の削減」「2050年カーボンニュートラル」という2つの目標の実現に向けて、以下の内容に取り組んでいきます。
まず初めのステップとして2030年に向け、自家発電の低炭素化で約30万トン、購入する電気の非化石化で10~20万トン、プロセス由来の排出の抑制で10~20万トンのGHG排出量の削減を目指します。加えて、事業ポートフォリオの転換等によるGHG排出量削減を進めます。
続く2050年に向けてのステップにおいては、当社が開発するアルカリ水電解、CO2分離・回収等といった技術の社会実装による電気や蒸気のグリーン化、プロセス革新の推進を図ります。また、さらなる事業ポートフォリオの転換等を推進し、目標達成に向け削減を進めていきます。

  • 目標 2030年 ▲30%以上(対2013年度) 2050年 カーボンニュートラル 1st step 既存技術を中心とした削減 自家発電低炭素化 ▲30万t 購入電気比か石化 ▲10~20万t プロセス改善・革新等 ▲10~20万t 事業ポートフォリオ転換等 2nd Step 新たな技術を中心とした削減 電気/上記グリーン化(アルカリ水電解、CO2分離・回収) プロセス革新の推進 事業ポートフォリオ転換の推進等 2020年 391万t 2030年 360万t未満 2050年 カーボンニュートラル
    GHG排出量

スコープ1、2 GHG排出量(国内・海外)

当社グループの経営支配権が及ぶすべての関係会社の生産拠点を対象とし、グループ外へ外販した電気と蒸気の製造に由来するGHG排出量を包含しています。
2023年度のGHG排出量は、スコープ1排出量が239万t-CO2e、スコープ2排出量が79万t-CO2e、スコープ1+2合計で、318万t-CO2eとなりました。 基準年度2013年度のGHG排出量511万t-CO2eに対して、約38%削減しました。

  • 2023年度のスコープ1,2GHG排出量のデータは、第三者保証実施前の数値です。
  • 国内+海外 2019年度399万t-CO2e、2020年度391万t-CO2e、2021年度403万t-CO2e、2022年度367万t-CO2e、2023年度318万t-CO2e
    GHG排出量の推移(国内+海外)
    ※カバレッジ76.2%(GHG排出量に含まれる会社の売上高/当社グループの連結売上高×100)

スコープ3排出量

  • スコープ3排出量(国内+海外)1,191万t-CO2e 購入した製品、サービス412 資本財47 スコープ1,2に含まれない燃料、エネルギー関連の活動69 上流の輸送・流通20 事業から発生する廃棄物7 出張2 従業員の通勤3 上流のリース資産0 販売した製品の使用139 販売した製品の廃棄処理492
    スコープ3排出量
  • 2023年度のスコープ1,2GHG排出量のデータは、第三者保証実施前の数値です。
  • スコープ3排出量:企業が、そのサプライチェーンにおいて、間接的に排出する温室効果ガス排出量。なお、スコープ3 カテゴリ1、5、11、12の算定方法は、データ編に記載しています。

CO2排出量削減の取り組み

再生可能エネルギーの活用

当社グループは、延岡・日向地区が管轄する水力発電所を9か所所有し、グループ(国内+海外)電力使用量の約2%を賄っています。この水力発電の利用により、買電した場合と比較すると、年間約2万トンのCO2の排出を抑制しています。
また、バイオマス発電設備も有しています。

  • 経済産業省、環境省令第3号に基づく換算係数(0.438kgCO2/kWh)を用いました。
  • 電力量2,370千MWh 火力36.1% 水力2.2% 太陽光0.0% 買電61.7%
    電源別電力使用比率(2023年度)国内・海外

なお、再生可能エネルギーの購入量および発電量※1としては、下表の通りです。

種別 単位 2023年度
水力発電量 MWh 56,701
太陽光発電量 MWh 256
バイオマス由来※2発電量 MWh 55,550
非化石証書購入量 MWh 157,108
バイオマス由来※2蒸気生成量 GJ 317,192
  • ※1FIT制度により環境価値がない水力発電量は集計対象外としています。
  • ※2バイオマスと石炭の混焼発電で、発電量と蒸気生成量にバイオマス燃料の投入比率を乗じて算定しています。
  • 2023年度の再生可能エネルギーの購入量および発電量のデータは、第三者保証実施前の数値です。

住宅事業における再エネ電力活用

旭化成ホームズグループは、気候危機に対する取り組みとして、脱炭素社会の実現とレジリエンスを両立し、持続可能な都市のくらしを実現することを目指して、2019年、REイニシアティブに加盟し、国内のハウスメーカーとして初めて達成しました。
事業活動消費電力の100%を再生可能エネルギーで調達することを目標として推進しており、参加時点での達成目標である2038年を大幅に前倒しした2023年度にRE100を達成しています。

物流における省エネルギー対策(国内)

当社グループは、環境にやさしい鉄道貨物輸送を推進しています。
2023年度の当社グループの物流量は、約9億トンキロで、CO2排出量は約7.2万トンCO2と、2022年度に比べ物流量は約10%の減少、CO2排出量で約6%の減少となりました。当社グループの物流は、すべて委託していますので、物流会社と協力しながら、物流時のエネルギー使用量の削減、環境負荷の低減にさまざまな視点から取り組んでいます。また、自治体が実施している「エコ運搬制度」等の取り組みにも、荷主として積極的に参加しています。
当社では、輸送規模当たりのCO2排出量が低い鉄道輸送を利用し続けており、「エコレールマーク」の認定を取得しています。

旭化成グループは、環境にやさしい鉄道貨物輸送を推進している企業です。 エコレールマーク

社有車の低公害車化の促進(国内)

当社グループは、営業活動や工場内で使用している車両の低公害車化に取り組み、2023年度は93%の車両を低公害車化しました。

旭化成グリーンボンド

詳細はこちらをご覧ください。

気候変動に関する取り組み(TCFD※1枠組みに基づく開示)

2024年8月更新

気候変動に関する認識

2023年3月に公表されたIPCC※2第6次評価報告書では、地球の平均気温は産業革命期以来すでに1.1℃上昇しており、各国の温室効果ガス(以下、GHG)削減目標がすべて達成されたとしても、今世紀末までの気温上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標には到達し得ないことが指摘されました。そのような中、同年4月ならびに翌年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、「G7はこの決定的に重要な10年に、即時、短期、中期の行動を実施する」というコミットメントが続けて強調されました。
旭化成グループ(以下、当社)は、地球温暖化進行への危機感が世界で一段と高まっており、また、適応・緩和のための政策等が加速しつつあると認識しています。

当社の姿勢

当社は創業以来1世紀にわたり、時代と共に変化する社会課題に挑戦し、自らを変革しながら、事業を展開してきました。気候変動が社会システム全体の大転換を迫る中、当社は事業ポートフォリオ変革と不断の生産性向上を進めながら、2050年のカーボンニュートラルな社会と持続的な企業価値向上に向けて挑戦しています。
また、当社のGHG排出量(Scope1、2)の削減を着実に進め、さらにはScope3を含むサプライチェーン全体のGHG排出量の削減に取り組んでいます。

  • ※1 TCFD:Task force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース。2017年に金融安定理事会(FSB)により設置され、最終報告書(TCFD提言)を公表。2023年10月に解散し、国際財務報告基準(IFRS)が継承。
  • ※2 IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル。

ガバナンス

当社では、気候変動に関する取り組みを中心とするグリーントランスフォーメーション(以下、GX)を重要な経営課題と捉え、経営戦略の中核テーマの一つと位置づけて取り組んでいます。
気候変動に関する方針や重要事項は取締役会で、具体的な事項は経営会議をはじめとする経営執行の意思決定機関で、審議・決定を行っています。2023年度には、GXリーグへの参加、国内GHG排出量の削減目標、国内購入電力の非化石比率目標を決定しました。

(主な審議・決定事項)

  • GHG排出量の削減目標、実績、対応策
  • 中期経営計画、計画の進捗・実績、対応策
  • 投資計画(GHG排出量の観点を含む)など

なお、中期経営計画や年度経営計画の策定においては、各事業部門とスタッフ部門との個別の議論を経て、グループとしてのGX等についての計画を立案し、これを経営会議・取締役会で審議・決定しています。

当社では、取締役会・経営会議でのこれらの決定を事業レベルで推進するため、社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し、事業の各執行責任者が気候変動を含むサステナビリティに関する課題を共有し議論を実施しています。議論の内容は取締役会に報告し、全社での取り組みのあり方等についての議論につなげています。
カーボンニュートラル推進プロジェクトは、GX推進担当役員のもと、GHG排出量の削減目標達成に向けてシナリオや具体策を検討しています。検討においては、社長・経営企画担当役員他による方向性の確認を定期的に実施しながら内容の深化を進めています。また、気候変動対策と密接に関連するサーキュラーエコノミーへの移行を加速するため、2024年4月にサーキュラーエコノミー推進プロジェクトを発足しました。同プロジェクトでは、サーキュラーエコノミーに関する当社の方針や方向性の検討を進めています。

なお、マテリアル領域と住宅領域を中心に、各事業部門のサステナビリティ担当部署において、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに向けた取り組みを事業部ならびに全社サステナビリティ部門と連携しながら推進しています。

取締役会、(経営会議)社長、スタッフ部門、 事業本部/事業会社、サステナビリティ推進委員会、地球環境対策推進委員会、リスク・コンプライアンス委員会、カーボンニュートラル推進プロジェクト、サーキュラーエコノミー推進プロジェクト

【サステナビリティ推進委員会】

  • 気候変動を含むESG全般についての共有・議論・方向づけ
  • 委員長:社長
    委員:技術機能部門担当役員、経営管理機能部門担当役員、3事業領域担当役員
  • 2023年度の主な議題:カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、自然資本、人権、非財務情報開示 等

【地球環境対策推進委員会】

  • ESGのうち、環境(E)全般についての共有・議論・方向づけ
  • 委員長:技術機能部門担当役員(環境安全)
    委員:事業本部長、製造統括本部長、生産技術本部長、研究・開発本部長 他

【カーボンニュートラル推進プロジェクト】

  • 2030年GHG排出量削減目標、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みの集約、シナリオ分析についての共有・議論
  • プロジェクト統括:GX推進担当役員、プロジェクト長

【サーキュラーエコノミー推進プロジェクト】

  • サーキュラーエコノミーに関する当社の方針・方向性の検討
  • プロジェクト統括:GX推進担当役員、プロジェクト長

戦略

当社は、さまざまな気候変動シナリオに伴う重要な機会とリスクを認識・分析した上で、中期経営計画に基づき、機会を積極的に捉えるとともに、リスクのコントロールを図っています。

分析の前提

温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、以下の2つのシナリオを典型的なものとして分析しました。

  • 産業革命以来の気温上昇を「+1.5℃」に抑制していくためにGHG排出を強力に抑制するシナリオ(WEO: Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)※3)
    ・・・規制の強化と社会や市場の大きな変容を移行リスクの中心シナリオとして検討
  • 温暖化対策が十分に進まずに、気温上昇が「+4℃」となっていくシナリオ(IPCC SSP3-7.0※4)
    ・・・異常気象と社会・生態系の変化を物理的リスクの中心シナリオとして検討

それぞれについて、当社の事業に関わる機会とリスクを検討しました。

  • [注] 本分析は種々の前提に基づくものであり、前提の変動によっては、実際のリスクと機会の発現が大きく異なることがあり得ます。
  • ※3 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)作成のWEO(World Energy Outlook)2023に掲載されたシナリオの一つ。2100年の気温上昇を+1.5℃に抑えるために、2050年に世界ネットゼロを達成するためのシナリオ。
  • ※4 IPCCの第6次評価報告書に掲載されたシナリオの一つ。SSPはShared Socioeconomic Pathways、共通社会経済経路の略でSSP3-7.0は地域対立的な発展のもと、気候政策を導入せず、2100年に+4℃まで気温が上昇するシナリオ。

機会

当社はカーボンニュートラルな社会への転換をはじめとするメガトレンドを見据え、価値提供に向けた事業ポートフォリオ変革を推進しています。成長牽引事業であるGG10はいずれも気候変動に関する機会を有しており、中期経営計画においては、2024年度までの3年間でGG10について約7,000億円の投資を決定することを目標としています。特に、蓄エネルギーや水素関連に重点的に経営資源を投じており、現在の中期経営計画の3年間で最大3,000億円までの投資を想定しています。
また、当社における脱炭素関連では、2024年度までの3年間で約600億円の投資を実行する構えとしています。
加えて、気候変動対応を中心とする新技術の取り込みや協業を狙いとして、CVC活動において“Care for Earth投資枠”(2023~2027年度の5年間に1億ドル)を設定し、環境分野のスタートアップ企業への投資を行っています。

当社の事業展開の方向性は、気候変動の緩和および適応においてさまざまな製品・サービスを事業機会として提供し得ると認識しています。

  • カーボンニュートラル社会 デジタル社会 健康・長寿社会 価値提供分野 Environment & Energy Mobility Life Material Home &Living Health Care 次の成長を牽引する事業10のGrowth Gears(GG10) 水素関連 CO2ケミストリー 蓄エネルギー 自動車内装材 デジタルソリューション 北米・豪州住宅 環境配慮型住宅・建材 クリティカルケア グローバルスペシャリティファーマ バイオプロセス 気候変動シナリオとの関連性 +4℃シナリオ +1.5℃シナリオ 
    • ※5 ◎:IPCC第6次評価報告書とWEO2023での直接的な言及等、関係性が強いと判断したもの
    • ○:上記には及ばないが、広く関連があると想定されるもの

例えば、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、バッテリー市場ならびに水素市場で大きな拡大が予想されます。これらは当社が最も注力している事業分野の一つです。

  • クリーンエネルギー技術別の市場規模予想(2020-2050年) Stated Policyシナリオ(STEPS)(各国の既存政策ベース) Net Zero Emission by 2050シナリオ(NZE) バッテリー市場の拡大を予想
    クリーンエネルギー技術別の市場規模予想(2020-2050年)※6
  • 低GHG排出の水素製造市場の見通し(2022-2050) NZEシナリオでは2050年までに水電解市場で大きな拡大が予想される
    低GHG排出の水素製造市場の見通し(2022-2050)※7
  • ※6 IEAのWorld Energy Outlook 2021より当社作成。また、World Energy Outlook 2022ではNZEシナリオにおける運輸部門のバッテリー需要は2021~2030年で16倍余りに拡大。
  • ※7 IEAのWorld Energy Outlook 2023より当社作成。
機会
  重要な変化 主な機会 主な取り組み、製品
+1.5℃ シナリオ カーボンニュートラルな社会への移行 ・政策によるZEH※8ZEH-M※8普及の促進
・再生可能エネルギーの需要拡大
・省エネニーズの高まり
・カーボンニュートラルな製品の需要拡大
・ZEH対応「ヘーベルハウス」「ヘーベルメゾン」の拡大による住まい/街のカーボンニュートラル化
・エネルギーのカーボンニュートラル化(ヘーベル電気
・省エネルギー化の推進、プロセス革新(食塩電解ネオマフォーム 等)
・原材料のバイオマス化(バイオエタノール由来基礎化学品※9バイオマス認証製品
・CO2を原料とする化学品の製造技術の展開(ポリカーボネート、LIB電解液原料 等)
環境貢献製品の展開
・カーボンフットプリント※10の把握によるカーボンニュートラル化推進、製品競争力強化
電気自動車(EV)の普及 ・EV関連需要の拡大
(電池用部材、自動車軽量化素材)
・次世代モビリティ社会への部材/システムの開発、提供(エンジニアリングプラスチック、電子部品 等)
・自動車メーカー、電池メーカー等との連携強化(LIBセパレータカーインテリアファブリック 等)
水素社会の到来 ・再生可能エネルギーを活用した水電解の需要拡大 ・グリーン水素製造システムの開発と事業化推進(アルカリ水電解システム)
循環型経済への移行 ・循環型経済に適合する部材の需要増加
・循環型経済関連のインフラ整備
・マテリアルリサイクル/ケミカルリサイクル技術の開発、社会実装の推進
・バイオマス原料の活用(バイオエタノール由来基礎化学品※9バイオマス由来ポリアミド66
・LONGLIFEな住宅の提供(ヘーベルハウスヘーベルメゾンリフォームストックヘーベルハウス
デジタル市場の拡大 ・カーボンニュートラルに向けた社会や生活、産業におけるデジタルソリューション 電流センサー/CO2センサーなどの電子部品や、半導体/基板関連の電子材料事業の推進
+4℃ シナリオ 風水害の甚大化 ・災害に強い住宅ニーズの高まり ・「ヘーベルハウス」「ヘーベルメゾン」の展開をはじめとする住まいづくり、街づくりでのレジリエンス強化
気温上昇 ・断熱性能へのニーズの高まり ・断熱性能の高い断熱材や住宅の提供(ネオマフォームヘーベルハウスヘーベルメゾンリフォーム
熱中症・感染症の拡大 ・関連医薬品・医療機器の需要拡大 ・医薬・医療事業、クリティカルケア事業の製品の提供
  • ※8 ZEH(Net Zero Energy House)、ZEH-M(ZEH-マンション):高断熱化、省エネ、太陽光発電等の創エネにより、エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ以下となる住宅
  • ※9 当社サステナビリティ説明会資料(2023年1月)、p.15
  • ※10 カーボンフットプリント:製品の原料採掘から生産までのGHG排出量

リスク

シナリオを踏まえて、当社における気候変動リスクをさまざまな観点から分析しました。

「+1.5℃」シナリオでは、カーボンプライシング等、国の政策による規制強化をはじめ、カーボンニュートラルに適合する製品・サービスへの需要シフト、サーキュラーエコノミーへの移行加速、カーボンニュートラル実現に向けた革新技術の登場による市場構造の変化をリスクとして想定しています。関連リスクとして、カーボンニュートラルに向けた投資家や顧客の期待が当社の取り組みレベルを上回るようになった場合の会社選別や、社会における評判の低下なども想定しています。
「+4℃」シナリオでは、主として酷暑・大雨・洪水などの物理的リスクを想定しています。特に、国内外の主要拠点における、風水害の甚大化による製造拠点の被災とその損害額をリスクとして認識しています。

これらは、今後気候変動が進む中でいずれも発現し得るリスクであると捉え、低減に向けた取り組みを進めていきます。

リスク
重要な変化 主なリスク 主な取り組み
+1.5℃ シナリオ カーボンニュートラルな社会への移行 ・規制強化によるコストアップ  (製造、原材料)
  • 【試算】
    現在の当社GHG排出量(Scope1、2)に、カーボンコストを乗じた場合、約480億円/年※11になります。

・素材ニーズの変化  (カーボンニュートラル要求、必要スペック)
  • ・カーボンフットプリントの高い素材の需要減少や、EV化進展による素材ニーズの変化等が想定されます。
・カーボンニュートラルへの取り組み状況の点からの投資家や顧客による会社選別、社会での評判低下
カーボンニュートラルに向けた行動の推進
・再生可能エネルギー等の活用拡大
・エネルギー使用の高効率化、革新的な工業プロセスの開発・実用化
・原材料のバイオマス化
・カーボンフットプリントの把握による製品のカーボンニュートラル化の加速
・経営資源配分の見直し
(事業ポートフォリオ転換も含む)
市場構造の変化 ・循環型経済への移行による既存市場の縮小
  • 循環型経済への移行は徐々に進み、リニアエコノミー型製品の需要の伸びが逓減されると想定しています。

・代替技術の進展による既存市場の縮小
  • 技術動向を注視しながら、リスク認識をアップデートしています。
・マテリアルリサイクル/ケミカルリサイクル技術の開発、社会実装推進
・バイオマス原料の活用
・経営資源配分の見直し
(事業ポートフォリオ転換も含む)
+4℃ シナリオ 風水害の甚大化 “物的”生産リスク
・工場被災による生産停止
・サプライヤー被災による原材料供給網の寸断
  • 主要拠点での洪水リスク等について、取り組み状況、発生頻度、保険の付保などを踏まえ、認識しています。
・BCPの継続的見直し、事前対応強化 (在庫水準見直し、複数購買・拠点化の検討等)
気温の上昇 “人的”生産リスク
・建設現場での労働環境悪化、生産性悪化
  • 主として、酷暑による生産性の低下リスクを認識しています。
・建設現場での熱中症対策の推進
・住宅建設の工業化推進、IT技術活用
  • ※11 当社2023年度GHG排出量(Scope1、2; 速報値):318万t-CO2e。カーボンコストを、WEO2023のNZEシナリオにおける2030年のCO2価格水準等を参考として、15,000円/t-CO2と置いた場合。
  • カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ
    2030年 Scope1+2 グローバル358万t-co2e(-30%以上)、国内223万t-co2e(-46%)を目指し、エネルギー低炭素化、再生可能エネルギー導入、プロセス改善・革新、事業ポートフォリオ変革等を計画。
    2050年 Scope1+2 カーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギー導入拡大、プロセス革新、新技術・事業の推進(アルカリ水電解、CO2分離・回収等)、事業ポートフォリオ変革の推進等を計画。
    投資:GG10 約7000億円、脱炭素約600億円、CVC1億米ドル
    資金調達:グリーンボンド計300億円(使途:当社所有の水力発電設備の改修工事)、グリーンイノベーション基金

リスク管理

当社は気候変動リスクを「グループ重大リスク」の一つとして位置づけ、重点的に管理しています。

GHG排出量モニタリング
Scope1, 2およびScope3(主要なカテゴリー)について、第三者保証を得ながら信頼性のある実績量を毎年把握しています。目標に対する進捗状況は、サステナビリティ推進委員会やその分科会である地球環境対策推進委員会などで共有し、今後の取り組みに関する議論・確認をしています。
経営計画の策定や見直しの際には、GHG排出量削減の取り組み状況などを確認し、事業戦略や施策につなげています。また、月次でも関連する状況の把握と経営層への情報共有を行っています。
インターナルカーボンプライシング(ICP)
カーボンニュートラルに向けた行動を促進するため、設備投資においてICPを用いた採算評価を実施し、投資判断に活用しています。ICPの価格は、国際エネルギー機関(IEA)が予測する炭素価格や市場価格、当社でのカーボンニュートラルに関するコスト見通しなどを考慮し、設定しています。

指標と目標

当社は以下の指標を、気候変動の機会・リスクに関係するものとして位置づけています。

目標と実績 指標の意味
GHG排出量※15
目標
2030年 30%以上の削減(2013年度対比)
2050年 カーボンニュートラルの達成
実績
2023年度 318万t-CO2e(速報値)
Scope1, 2の削減状況を示す
GHG排出量※15 / 営業利益
実績
2023年度 0.23万t-CO2e/億円(速報値)
低下は炭素税リスクの低減を示す
ROIC(投下資本利益率)
目標
2030年近傍 10%以上
実績
2023年度 5.9%
向上は変化対応力ある高収益事業体への進化を示す
“GG10”の営業利益(比率)
目標
2030年近傍 70%以上
実績
2021年度 35%
気候変動に貢献し得る関連事業の比率を表す

<その他>

インターナルカーボンプライシング 15,000円/t-CO2 で投資判断、表彰制度等に活用
役員報酬での気候変動課題の反映 「業績連動報酬」において、気候変動対応に関する取り組みを含む「サステナビリティ推進」達成度を反映
  • ※15 当社の事業活動に直接関わるGHG排出量であるScope1(自社によるGHGの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)が対象

また、バリューチェーン全体の観点から社会のGHG排出量の削減等に貢献する製品・サービス(環境貢献製品)の売上高比率を高め、2030年度のGHG削減貢献量を2020年度比で2倍以上にするという目標を掲げています。

当社グループの気候変動対応の全体像

  • 気候変動:さまざまなシナリオ 政策・社会変容による気温上昇抑制~抑制失敗による「酷暑」「水害」「生態系破壊」など リスク 移行リスク:カーポンプライシング(CO2コスト)、カーボンニュートラル取り組み遅れ等による事業機会逸失、CO2コストによる事業賀産の価値喪失、技術進展、市場変化による事業劣化など 物理的リスク:水害等によるサプライチェーンの被災など 旭化成の取り組み 自社排出量の削減(Scope1,2)、社会の排出量の削減(Scope3)、事業ポートフォリオ転換、事業継続計画(BCP)への取り組みなど 機会 気候変動緩和~適応:水素、CO2分離回収、利用、EV関連、ZEH、レジリエントな住まい、デジタル関連、ヘルスケアなど 中期経営計画2024〜Be a Trailblazer〜の推進 KPI:GHG排出量、GHG排出量/営業利益、ROIC、GG10営業利益 管理:カーボンニュートラル推進プロジェクト、地球環境対策推進委員会、中期経営計画ローリング、月次モニタリング